幕引きはあまりにもあっけなくて、渡せなかった誕生日プレゼントが、カバンの中でその存在を主張していた。
「…最悪」
言いようのない虚しさだけが、5月の肌寒い夜の中を通り過ぎていく。
もう、何も考えたくなかった…。
死ねば…楽になれるかな。
ぼんやりと、行き交う車のヘッドライトを見下ろしながら、私が考えるのはそんな事ばかりだった。
健也ーーー。
私が死んだら、少しは悲しんでくれるかな…?
この前会った時は、"早く一緒に住みたいね"なんて事も話してたのに…。

「……」
東京は夜でも人が多く、私が歩道橋の上で立ち止まっていても、気にする人は誰もいなかった。
だから、私が泣いていることにも、きっと誰も気付かない。
ここから少しくらい身を乗り出しても、きっと誰も気付かない。
そして…私が落ちても、きっと誰もーーー、
「あ、あの…!」
「ーーー健…」
声の主に腕を掴まれ、条件反射で振り返ったわたしは、咄嗟に健也の名前が口から出そうになるのを抑えた。
健也が…来てくれる事なんてないのだから。

瞬きで視界が鮮明になった私の目の前には、一人の男の人が…まだ私の腕を掴んでいた。
もちろんそれは、健也ではない全く知らない誰か。
「は、放して…」
「つ、月」
「え…」
彼に私の声は聞こえているはずなのに、
「月が…綺麗ですね」
全然関係のない事を、柔らかい笑顔で言うのだった。
「…」
言われて見上げた空には、綺麗な三日月が輝いていた。
それは、辛い辛い死にたいとそればかり考えて下を向いていた私が、気付くわけもなかった。
「は…い……」
私がぎこちなく返事をすると、彼は嬉しそうにまた笑顔を見せるのだった。