「うひゃー、田崎さんの彼女サンめちゃ可愛いっすね!」
俺の隣でそう騒いでいるのは、同期の…市川だったかな。
「だろ?」
桜が散って間もない今日、新卒で入社した俺や市川たちの歓迎会を、サラリーマンが客の大半を占めるこの居酒屋で開いてくれていた。
「田崎さん、俺にも画像見せてくださいよ!」
同じ部署で3年先輩の田崎さんのスマホを覗き込む輪の中に、俺も入っていった。
「…」
一瞬で、酔いが覚めるかと思った。
「どうした西野?おーい、西野(にしの)悠太(ゆうた)くーん!」
目の前で手のひらをぶんぶんと上下する市川のおかげで我に返った俺は、
「ホントだ!めちゃ可愛い…ですね!田崎さんが羨ましいです!」
などと言って調子を合わせた。
でも、羨ましいと言ったのは本心から。
スマホの中で笑う田崎さんの彼女は本当に幸せそうで…その笑顔がドストライクだったんだ。
田崎さんのことが本当に好きなんだろう事が伝わってくるーーーそれなのに、
「あ〜…じゃぁ西野だっけ」
「はい?」
「彼女、(さち)って言うんだけどさ、お前にあげるよ」
「はへ…?」
とんでもない事を言われた俺は、変な声を出してしまった。
「何だよその声(笑)。幸とは、別れる予定だから」
そう言ってビールの入ったジョッキを傾ける田崎さんを、俺はぽかんと見ていた。
今の今、俺たちに彼女自慢してたのに?
別れるって言った?
「またまた〜、何言ってんですか」
「いやホントの話だから」
市川の言葉をさらりと交わした田崎さんは、更にとんでもない事を言い出した。
「オレの誕生日の5月3日、"エターナル"ってバーわかる?そこで会う予定があるんだけど、その時に別れるつもり」
「…」
彼女が開いてくれる誕生日会の席で…?
別れを切り出すというのか?
「事務課のなおちゃんとか、最近いいなぁ〜って思ってんだよね。幸とはもう長いからさ、新鮮味もないし」
男の俺から見てもイケメンで優しくて、仕事もテキパキこなす田崎さんだけど、人としてどうかと思い始めていた俺だった。
「まぁ幸と付き合いながら、他でつまみ食いもしてるけどな」
完全に理解不能。
「いいなー西野!田崎さんオレにも誰か紹介してくださいよぉ〜」
「おー、また今度な!」
市川の言葉に調子良く答えている田崎さんに、俺は不信感しかなかった。
「…」
喉を通るレモンサワーが、全然美味しく感じられなかった俺の中には、田崎さんの彼女ーーー幸さんの笑顔が貼り付いて離れなかった。
あの笑顔が、もうすぐ壊れてしまうなんて…。