皆さんは普段から、図書館に通われたりしますか?
 僕は本屋同様、昔から好きな場所です。
 しかし、幼い頃から文字を読むのが苦手なため、小説を借りても返却期間内に読み終わったことが無く。
 読めないまま、返却することが多いです。

 その日は気分転換のために、図書館へ訪れていました。
 有名な作品でも読めば、新たな発想というか、ネタ探しのためにも図書館に来たのですが。
 どれも難解な作品に感じて、今日は本を借りるのをやめようかと思っていたころに、それは起きました。

 僕の後ろを制服姿の男子高校生と女子高生が、ペチャクチャ喋りながら、通り過ぎていきました。
 そして、目当ての本棚に着くと二人の話は盛り上がっていきます。

「あのさ、漱石とかどう? 面白いと思うんだけど」
「漱石ならもう読んだよ! すごく良かった!」
「そっか! じゃあさ、こっちはどう? 太宰とかさ」
「あ! 前から読みたいと思っていたんだよ!」

 その二人の話を隣りで聞いていて、僕はこう思いました。

(この距離感……まだヤッてないな。でも、”アオハル”ぽくてすごく好き)

 と心の中で、呟いておりました。
 また見ていて、とても心が穏やかになります。
 あんな時代、もう僕には無いから……と。

 しかし、その二人を見て、ひとりの老人が注意します。

「あのねっ! 君たち、ここをどこだと思っているの!? 図書館だよ! 黙って本を読みなさい!」

 見たところ、僕の父と同じぐらいの高齢者でした。
 言っていることは、間違っていませんが……二人の話し方は、そこまで大きな声だとは感じませんでした。
 
 我慢できなくなった僕は、注意していたおじいさんに向かって、怒鳴り声をあげました。

「ちょっとぉ! まだ若者がイチャついている途中でしょうが!」

 これには、高校生カップルも、おじいさんも黙り込んでしまいました。
 しかし、僕は話を続けます。

「いいですか!? 漱石や太宰を愛する文学男子と文学女子が今、イチャイチャしているんですよ。想像力を働かせてください!」

 僕の言っていることが理解できないのか、おじいさんは首を傾げます。

「君は一体、なにを言っているんだ?」
「だ~か~ら! この二人が燃え上がったら、ホテルへ行くかもしれませんよね? つまり将来二人の間に赤ちゃんが生まれる、可能性があるんですよ」
「はぁ……」
「文学を愛する二人から、生まれたとなれば! きっと太宰や漱石を超える、文豪が誕生するかもしれないと言いたいのです!」

 僕の勝手な妄想に振り回された高校生カップルは、顔を真っ赤にしていました。
 特に彼氏さんが。

「あ、あのぉ……さっきから勝手に言ってますけど! 僕たちまだ付き合ってないですから!」
「え? そうなの? ごめんなさい……」

 この後、図書館の司書さんが現れて僕は、図書館を出禁にされ、警察にも通報された……。