ノーメイクで大学に行くのに、夜になると私はメイクをする。あなたに会うためだけに覚えたメイクで。
キラキラのラメが可愛いアイシャドウ。ツヤツヤの桃みたいなリップ。肩をのぞかせたワンピースを着て、髪を巻く。揺れる雫のイヤリングをつけて、白のハンドバッグを片手に家を出る。
少しだけ、今日は気合を入れた。
だって、いつもはサークルのメンバー数人の中に混ざる形だったけど、今日はあなたと二人きり。心が踊った。数人の中の、特別になれた気がした。
軽い足取りで、待ち合わせ場所のカフェに入る。なんだか新鮮。いつも居酒屋ばかりだったから。
「昨日ぶり」
小さく手を挙げて、こっちこっちと招き寄せるあなたは、二つ上の先輩で、彼女持ち。
略奪するつもりはない。彼女の次に、特別な存在になりたい。親友でも、妹でもいい。いつかあなたが彼女と別れたとき、一番に私のことを思い出してくれたら、それでいい。それでいつか、この恋が叶うのなら、今は都合のいい存在でいいんだ。
「昨日ぶりですね」
「会えて嬉しいよ。ほら、なんでも好きなの頼んで」
くすぐったくなるような言葉をかけて、メニューをこちらに向けてくれる。夏だからか、柑橘系のドリンクが豊富だった。
「これにします」
ちょっとオシャレなレモネード。いつもはアルコール度数低めのお酒を飲むけど、ここにはお酒はなかった。だから、少し惹かれたココアを蹴って、オシャレなレモネード。少しでもあなたに追いつきたいから。
「ん。他には?」
「とりあえず大丈夫です」
あなたは頷き、私の注文と一緒にアイスコーヒーを頼んだ。やっぱりまだ遠いなと、寂しくなる気持ちを見て見ぬふりをした。
「こうやって二人で会うの、初めてだね」
水が入ったグラスをくるくる回しながら、いつもと変わらない、優しくて大好きな笑顔を向けられる。
「はい。誘ってくれて、ありがとうございます」
引退が近づくあなたとサークルメンバーの集まりで会えるのは、あと数ヶ月。二人でと誘ってもらえたのは関係性の一歩前進を表しているみたいで、気分の高揚が止まらない。
「こちらこそ、来てくれてありがとう。今日誘ったのは、ちょっと、話したいことがあって」
そう、あなたの顔がほころぶ。いつにも増して優しい顔。なんだろうと、胸が高鳴る。その先の言葉に、期待が止まらない。
「あとで、ゆっくり話すね。それよりも先に、これ」
そっと机の上に置かれる、茶色い箱。金色で英語が書かれているけど、なんて読むのかはわからない。でも白いリボンで装飾されていて、特別なものということだけはわかった。
「なんですか、これ」
ドキドキする。だって、これは、もしかして、もしかしなくても……。
「今日、誕生日でしょ?だから誕生日プレゼント」
あなたに教えた覚えはないのに、当たり前のように私にそれを寄せる。
どうでもいい人の誕生日なんて、普通祝わない。覚えてられない。
でも、あなたはどこかで知り得た私の誕生日を覚えていて、誘ってくれて、プレゼントまで用意してくれた。これは、きっといい波が来ている。あの表情といい、このプレゼントといい、なにかきっと、いい話が私に飛んでくる。
「ありがとうございます……!あの、開けてもいいですか?」
なんだろう。誰かにこうしてサプライズで祝ってもらったのは初めてで、驚きと喜びが交互に私の中を巡っていく。
今日は、あなたとの初めてがたくさん積もる。
今日は、今までの人生で一番、特別な日。
誕生日だからじゃなくて、大好きなあなたとの初めてが、ただの生まれた日を特別に色付けてくれたから。
リボンをほどき、蓋をそっと引き上げる。
グラシン紙を退けると、色んな形、色んな色をしたチョコレートが並んでいた。
「可愛い……。ありがとうございます」
食べられない。こんなに素敵なプレゼント、食べて無くなってしまうなんて勿体ない。
「来年は」なんて、未来の約束ができる関係ではないからこそ、その時が来るまではずっと見えるところに置いておきたい。
「よかった。ここ、彼女のバイト先の店なんだ。オススメだよ」
まただ。……見たことなかった、優しい笑顔。
笑わないと。嬉しそうに、喜ぶ言葉を選ばないと。そうじゃないと、めんどくさい奴って思われてしまう。そばにいられなくなってしまう。
「じゃあ、今度行ってみます。凄く美味しそう」
「うん。俺のオススメはね、これ」
指さしたのは、ハート形のもの。ピンクのチョコが細く、斜めにかけられていて、いかにも甘そうなチョコレート。
「甘いですか?それとも、甘酸っぱいですか?」
「うーん。食べてみたら、わかるよ」
きっとハート型だからハイミルクか、イチゴ。その横のカカオ型のものはきっと、苦い苦いハイカカオ。
「帰ったら、食べてみます」
私が言うと、あなたは満足そうに微笑んで、頷いた。
いつの間にか届いていたレモネードとコーヒー。あなたは大人で、私はまだまだ子どもなのかなと、コーヒーを飲んで様になるあなたを見て、手元にあるチョコレートを見て、少し苦しくなった。
キラキラのラメが可愛いアイシャドウ。ツヤツヤの桃みたいなリップ。肩をのぞかせたワンピースを着て、髪を巻く。揺れる雫のイヤリングをつけて、白のハンドバッグを片手に家を出る。
少しだけ、今日は気合を入れた。
だって、いつもはサークルのメンバー数人の中に混ざる形だったけど、今日はあなたと二人きり。心が踊った。数人の中の、特別になれた気がした。
軽い足取りで、待ち合わせ場所のカフェに入る。なんだか新鮮。いつも居酒屋ばかりだったから。
「昨日ぶり」
小さく手を挙げて、こっちこっちと招き寄せるあなたは、二つ上の先輩で、彼女持ち。
略奪するつもりはない。彼女の次に、特別な存在になりたい。親友でも、妹でもいい。いつかあなたが彼女と別れたとき、一番に私のことを思い出してくれたら、それでいい。それでいつか、この恋が叶うのなら、今は都合のいい存在でいいんだ。
「昨日ぶりですね」
「会えて嬉しいよ。ほら、なんでも好きなの頼んで」
くすぐったくなるような言葉をかけて、メニューをこちらに向けてくれる。夏だからか、柑橘系のドリンクが豊富だった。
「これにします」
ちょっとオシャレなレモネード。いつもはアルコール度数低めのお酒を飲むけど、ここにはお酒はなかった。だから、少し惹かれたココアを蹴って、オシャレなレモネード。少しでもあなたに追いつきたいから。
「ん。他には?」
「とりあえず大丈夫です」
あなたは頷き、私の注文と一緒にアイスコーヒーを頼んだ。やっぱりまだ遠いなと、寂しくなる気持ちを見て見ぬふりをした。
「こうやって二人で会うの、初めてだね」
水が入ったグラスをくるくる回しながら、いつもと変わらない、優しくて大好きな笑顔を向けられる。
「はい。誘ってくれて、ありがとうございます」
引退が近づくあなたとサークルメンバーの集まりで会えるのは、あと数ヶ月。二人でと誘ってもらえたのは関係性の一歩前進を表しているみたいで、気分の高揚が止まらない。
「こちらこそ、来てくれてありがとう。今日誘ったのは、ちょっと、話したいことがあって」
そう、あなたの顔がほころぶ。いつにも増して優しい顔。なんだろうと、胸が高鳴る。その先の言葉に、期待が止まらない。
「あとで、ゆっくり話すね。それよりも先に、これ」
そっと机の上に置かれる、茶色い箱。金色で英語が書かれているけど、なんて読むのかはわからない。でも白いリボンで装飾されていて、特別なものということだけはわかった。
「なんですか、これ」
ドキドキする。だって、これは、もしかして、もしかしなくても……。
「今日、誕生日でしょ?だから誕生日プレゼント」
あなたに教えた覚えはないのに、当たり前のように私にそれを寄せる。
どうでもいい人の誕生日なんて、普通祝わない。覚えてられない。
でも、あなたはどこかで知り得た私の誕生日を覚えていて、誘ってくれて、プレゼントまで用意してくれた。これは、きっといい波が来ている。あの表情といい、このプレゼントといい、なにかきっと、いい話が私に飛んでくる。
「ありがとうございます……!あの、開けてもいいですか?」
なんだろう。誰かにこうしてサプライズで祝ってもらったのは初めてで、驚きと喜びが交互に私の中を巡っていく。
今日は、あなたとの初めてがたくさん積もる。
今日は、今までの人生で一番、特別な日。
誕生日だからじゃなくて、大好きなあなたとの初めてが、ただの生まれた日を特別に色付けてくれたから。
リボンをほどき、蓋をそっと引き上げる。
グラシン紙を退けると、色んな形、色んな色をしたチョコレートが並んでいた。
「可愛い……。ありがとうございます」
食べられない。こんなに素敵なプレゼント、食べて無くなってしまうなんて勿体ない。
「来年は」なんて、未来の約束ができる関係ではないからこそ、その時が来るまではずっと見えるところに置いておきたい。
「よかった。ここ、彼女のバイト先の店なんだ。オススメだよ」
まただ。……見たことなかった、優しい笑顔。
笑わないと。嬉しそうに、喜ぶ言葉を選ばないと。そうじゃないと、めんどくさい奴って思われてしまう。そばにいられなくなってしまう。
「じゃあ、今度行ってみます。凄く美味しそう」
「うん。俺のオススメはね、これ」
指さしたのは、ハート形のもの。ピンクのチョコが細く、斜めにかけられていて、いかにも甘そうなチョコレート。
「甘いですか?それとも、甘酸っぱいですか?」
「うーん。食べてみたら、わかるよ」
きっとハート型だからハイミルクか、イチゴ。その横のカカオ型のものはきっと、苦い苦いハイカカオ。
「帰ったら、食べてみます」
私が言うと、あなたは満足そうに微笑んで、頷いた。
いつの間にか届いていたレモネードとコーヒー。あなたは大人で、私はまだまだ子どもなのかなと、コーヒーを飲んで様になるあなたを見て、手元にあるチョコレートを見て、少し苦しくなった。