「行ってきます」
桜がひらひら舞い落ちる、四月の朝。肌寒い中、入学式に来れない母親に送り出された。引っ越して間もないので、途中道を間違えたりして、やっと高台にある中学校が視界に入る。
僕は学校に向かう途中の坂道で、隣を通り過ぎるひとりの女の子に視線を動かされる。
彼女は胸あたりまで伸びた姫カットで、特徴的な透き通った白髪をしている。それとどこか奥ゆかしいオーラを感じる。
白鷺のような彼女が綺麗で、知らず知らずのうちに目で追ってまう。
僕は、初めての恋で一目惚れをしてしまった。
でもこの恋は実らない。それは自分が一番分かっている。だって、僕は普通じゃないから。
諦めないといけない恋なのに、ついつい目で追ってしまう。そのうち、彼女をどこかで見たような既視感を覚えた。所謂、初めて経験することなのに一度起こったような感覚になるみたいなことだ。
見覚えがある制服姿、雲のように白い肌、容姿端麗な横顔、誰もが羨むほど真っ直ぐで一切の穢れがない艶やかな白髪。その髪がそよ風でなびく。
風でなびいてる白髪の綺麗さに、顔を動かされた。
大袈裟に言ってるように聞こえるが、僕の目にはそう映ったんだ。
彼女の制服に見覚えがある。確か同じ学校の制服だったか。この時間にいるのは、今日からこの中学校に入学する生徒だけのはず。だけど、彼女はどうも同い年と思えないほどに、大人びている。
二歳ほど年上なのかと思わせる雰囲気を醸し出す彼女の虜になり、僕は坂道で立ち尽くした。
甘い時間の中。冬のような寒さもなく、夏のような暑さもない。ただ『ここにずっといたい』と思わせるほど、心地よい空間だった。
「そこの人、遅れるよ!」
どこか優しさを感じる、透き通るような声が耳に入り、ハッとした。声の主は、さっきの女の子。
隣にいたはずの彼女は、もう遠い場所にいて、振り向いて声を掛けてくれた。そこで僕は相当な時間立ち尽くしてたことを理解し、内心、少し焦った。だけど、冷静を装って返事をする。
「全然、大丈夫」
僕はそう言って、ゆっくり歩き始めた。しかし、彼女が前を向くと同時に気づかれないように小走りをした。
小走りで追いつこうとしているが、どんどん差は広がっていくばかりで、彼女は既にクラス表が張られた下駄箱辺りまで着いていた。
視界から彼女が消え、小走りをやめて、普通に走って追いついた。しかし、あまり体力がなく、息が切れた。
新入生がたくさん集まる学校付近で深呼吸していると、さっきの女の子と目が合い、僕は咄嗟に視線を伏せた。
変な奴と思われたかな。もし今の出来事を彼女が小学校からの友達に言ったりしたら、馬鹿にされたり、クラスで孤立してしまうのかな。心配性の性格がそう思わせた。
一息つき、人が群がるクラス表を見に行った。一組には、僕の名前はなく、二組のクラス表に視線を移す。そこで自分の名前を見つけた。
そのとき、さっきの女の子が近づいてきて、声を掛けてきた。
「さっきの男の子だよね。同じ二組?」
彼女は妙に距離感が近く、横に来た瞬間、緊張感が増す。
「……そうだよ。えっと、よろしく」
走ったときに汗をかいてないか。寝癖はないか。そんなことを考えて冷や汗をかいた。
昔から人と話すと緊張する癖があり、最近になって治りつつあるが、まだ完全に治りきっていない。そのせいか、緊張してしまう。
目が合わせられない僕に対して、長い上まつげで、ビー玉のように透き通って綺麗な彼女の目が、ずっと目と合わせようとしてくる。そのたびに視線を逸らした。
「緊張してるの?」
目を合わせないことに痺れを切らしたのか、彼女に肩を人差し指でつんと突かれ、肩が一瞬ビクッと震えた。
この場合、正直に言うのが普通なんだろうか。いや、強がるのが普通なのか?
どうするのが普通か分からず、黙っていた。すると、彼女が声のボリュームを下げて心配そうに訊いてくる。
「大丈夫?」
僕は咄嗟に口を開く。
「うん。緊張してるだけだから……」
彼女は驚いたように「え?」と声を出した。僕も自分の口から出た言葉に驚き、手で口元を覆った。
つい本音が出てしまった。逃げたい、隠れたい。
恥ずかしなり、顔が燃えるように熱い。僕は隠すように顔を伏せた。すると隣から、ふふっと小さく笑う声が聞こえた。それは僕に話しかけてきた女の子のものだった。
「なにそれ」
可愛らしい笑い声を漏らしたあと、彼女は少し楽しそうに言った。
「君、面白いね。名前教えてよ!」
隣でまた女の子の声が聞こえた。友達はこうやって作っていくのか、と少し関心した。
数秒が経ち、違和感を抱いた。名前を訊かれているのに、相手はうんともすんとも言わない。もしかして――
「名前って、僕?」
顔を上げ、半信半疑で訊くと、
「うん、そうだよ」
と明るく返ってきた。
恥ずかしさと嬉しさで、より一層顔が熱くなる。僕はクラス表にある自分の名前を震えながら指す。
「山本優一くん?」
「はい……」
「えっ、ほんと! 見て、優一くんの一個下!」
クラス表にある自分の名前の一個下を見た。そこにはひとりの女の子の名前があった。
「私、雪野楓。よろしくね!」
奇跡でもなんでもない出来事なのに嬉しそうに声を上げられる彼女が、僕には輝いて見える。
僕と全てが真逆であろう彼女を見て、ますます自信がなくなる。この人に恋する資格があるのかって。
「えっと、よろしく、雪野さん」
昔から親密な友好関係を築いたことがない。そんな僕がする会話はぎこちない。
「そんなにかしこまらないで、楓でいいよ。その代わりに、優一くんって呼ばせてね」
誰かを下の名前で呼ぶなんて久しぶりだ。流石に、さん付けはしたほうがいいよな。そう考えていると、友人らしき人が楓を呼んだ。
「友達来たから、もう行くね。またね、優一くん」
楓はそう言いながら靴を脱いで、友達と校内に入って行った。
今まで好きな人ができても、遠くから見ているだけの臆病者だった。最初の一歩が踏み出せなかった。それが今、自分からではないけれど、一歩進んだような気がする。
好きな人と会話ができたという事実が緊張をほぐし、固まっていた体が一瞬にして解けて、次の瞬間、目の前が真っ暗になる。
*
目は閉じたまま、どこかのベッドに寝ていることを理解した。
「おーい、大丈夫か。起きろー」
意識を取り戻して最初に聞こえた声は、男性の声だった。
さっきまでのは記憶は夢だったんだろう。あんなに可愛い女の子が僕に話し掛けるはずがなかったんだ。
目頭が温まり、視界が霞む。夢でもいいから、もっと、ずっと、あの空間にいたい。
僕はさっきの夢に恋々としている。
寂寥感が上瞼を下ろそうとしたとこで丁度、扉が勢いよく開く音がした。次に、さっきとはまた別の聞き覚えのある声が聞こえた。
「優一くんいますか⁉︎」
声が耳に入って反射的に体が起き上がる。視界に飛び込んできたのは、夢だと思っていた楓の姿。
「どうしたの?」
目を開けて僕が返事をすると、楓は安堵するように「よかった」と言った。ベッドの横の椅子に座っていた男子も目を覚ました僕に気づき、養護教諭を呼びに行ってくれた。
男子が先生を連れて来てくれて、簡単な診察をしてもらった。悪い所は無いらしいが、念のため、保健室で安静にすることになった。
横にいてくれた彼は楓と知り合いなのか、親そうに話していた。授業開始の五分前チャイムが鳴り、楓とさっきの男子は授業に戻り、先生もまた用事でいなくなった。
ひとり、静かな保健室で、ベッドに体を置いた。天井にある模様のようなシミを数えながら時間が過ぎていく。
四十分ほどが経ち、養護教諭が戻ってきたので、二時間目から授業に参加する旨を伝え、保健室を出た。
緊張で心なしか足取りが重い。そのうち一年二組に着いた。
「……初めまして」
一年二組――クラスに、入って軽く挨拶をしたが、一時間目にいなかった僕とみんなとの間にはどこか壁を感じる。
中学の三年間、また友達すらできない、平凡な日常を歩むことになるのだろう。そう考えながら、倒れたことを後悔していた。
僕は猫背でふらふらしながら机に向かい、椅子に腰を下ろす。
次の授業になにをするのか分からず、机に肘を付いておどおどしていると、さっき保健室にいた男子が話しかけてきた。
「お! もう体調はいいの?」
「うん、もう大丈夫。さっきはありがとう」
さっきはあまり見ていなかったけど、彼は目尻にホクロがあり、顔全体が整ったイケメンだった。俳優の息子と言われても信じるくらい、端正な顔立ち。
「全然いいよ。俺、柏葉渚。渚って呼んで。これから宜しくね優一」
彼の親しみやすい雰囲気で、緊張感が薄れていく。不思議なことに、彼は僕の名前を知っていた。
「あれ、言ったっけ?」
「いや、これに書いてあった」
渚がポケットから出したのは、本来胸ポケットに付いてるはずの僕の名札だった。渚が落ちてた名札を拾ってくれたらしい。
そこから少し話をして分かったが、倒れた僕を保健室まで運んでくれたのも渚だった。その後も色々してくれて、渚のおかげでクラスに少しずつ馴染めてきた。
二時間目が終わり、渚に話しかけようとしたが、他の人と話している。
僕から見て分かるくらいに渚は人付き合いが上手く、もうクラスで中心のような立ち位置にいた。流石のコミュ力で、多分女子にも人気だと思う。
そんな渚がちょっと羨ましい。
桜がひらひら舞い落ちる、四月の朝。肌寒い中、入学式に来れない母親に送り出された。引っ越して間もないので、途中道を間違えたりして、やっと高台にある中学校が視界に入る。
僕は学校に向かう途中の坂道で、隣を通り過ぎるひとりの女の子に視線を動かされる。
彼女は胸あたりまで伸びた姫カットで、特徴的な透き通った白髪をしている。それとどこか奥ゆかしいオーラを感じる。
白鷺のような彼女が綺麗で、知らず知らずのうちに目で追ってまう。
僕は、初めての恋で一目惚れをしてしまった。
でもこの恋は実らない。それは自分が一番分かっている。だって、僕は普通じゃないから。
諦めないといけない恋なのに、ついつい目で追ってしまう。そのうち、彼女をどこかで見たような既視感を覚えた。所謂、初めて経験することなのに一度起こったような感覚になるみたいなことだ。
見覚えがある制服姿、雲のように白い肌、容姿端麗な横顔、誰もが羨むほど真っ直ぐで一切の穢れがない艶やかな白髪。その髪がそよ風でなびく。
風でなびいてる白髪の綺麗さに、顔を動かされた。
大袈裟に言ってるように聞こえるが、僕の目にはそう映ったんだ。
彼女の制服に見覚えがある。確か同じ学校の制服だったか。この時間にいるのは、今日からこの中学校に入学する生徒だけのはず。だけど、彼女はどうも同い年と思えないほどに、大人びている。
二歳ほど年上なのかと思わせる雰囲気を醸し出す彼女の虜になり、僕は坂道で立ち尽くした。
甘い時間の中。冬のような寒さもなく、夏のような暑さもない。ただ『ここにずっといたい』と思わせるほど、心地よい空間だった。
「そこの人、遅れるよ!」
どこか優しさを感じる、透き通るような声が耳に入り、ハッとした。声の主は、さっきの女の子。
隣にいたはずの彼女は、もう遠い場所にいて、振り向いて声を掛けてくれた。そこで僕は相当な時間立ち尽くしてたことを理解し、内心、少し焦った。だけど、冷静を装って返事をする。
「全然、大丈夫」
僕はそう言って、ゆっくり歩き始めた。しかし、彼女が前を向くと同時に気づかれないように小走りをした。
小走りで追いつこうとしているが、どんどん差は広がっていくばかりで、彼女は既にクラス表が張られた下駄箱辺りまで着いていた。
視界から彼女が消え、小走りをやめて、普通に走って追いついた。しかし、あまり体力がなく、息が切れた。
新入生がたくさん集まる学校付近で深呼吸していると、さっきの女の子と目が合い、僕は咄嗟に視線を伏せた。
変な奴と思われたかな。もし今の出来事を彼女が小学校からの友達に言ったりしたら、馬鹿にされたり、クラスで孤立してしまうのかな。心配性の性格がそう思わせた。
一息つき、人が群がるクラス表を見に行った。一組には、僕の名前はなく、二組のクラス表に視線を移す。そこで自分の名前を見つけた。
そのとき、さっきの女の子が近づいてきて、声を掛けてきた。
「さっきの男の子だよね。同じ二組?」
彼女は妙に距離感が近く、横に来た瞬間、緊張感が増す。
「……そうだよ。えっと、よろしく」
走ったときに汗をかいてないか。寝癖はないか。そんなことを考えて冷や汗をかいた。
昔から人と話すと緊張する癖があり、最近になって治りつつあるが、まだ完全に治りきっていない。そのせいか、緊張してしまう。
目が合わせられない僕に対して、長い上まつげで、ビー玉のように透き通って綺麗な彼女の目が、ずっと目と合わせようとしてくる。そのたびに視線を逸らした。
「緊張してるの?」
目を合わせないことに痺れを切らしたのか、彼女に肩を人差し指でつんと突かれ、肩が一瞬ビクッと震えた。
この場合、正直に言うのが普通なんだろうか。いや、強がるのが普通なのか?
どうするのが普通か分からず、黙っていた。すると、彼女が声のボリュームを下げて心配そうに訊いてくる。
「大丈夫?」
僕は咄嗟に口を開く。
「うん。緊張してるだけだから……」
彼女は驚いたように「え?」と声を出した。僕も自分の口から出た言葉に驚き、手で口元を覆った。
つい本音が出てしまった。逃げたい、隠れたい。
恥ずかしなり、顔が燃えるように熱い。僕は隠すように顔を伏せた。すると隣から、ふふっと小さく笑う声が聞こえた。それは僕に話しかけてきた女の子のものだった。
「なにそれ」
可愛らしい笑い声を漏らしたあと、彼女は少し楽しそうに言った。
「君、面白いね。名前教えてよ!」
隣でまた女の子の声が聞こえた。友達はこうやって作っていくのか、と少し関心した。
数秒が経ち、違和感を抱いた。名前を訊かれているのに、相手はうんともすんとも言わない。もしかして――
「名前って、僕?」
顔を上げ、半信半疑で訊くと、
「うん、そうだよ」
と明るく返ってきた。
恥ずかしさと嬉しさで、より一層顔が熱くなる。僕はクラス表にある自分の名前を震えながら指す。
「山本優一くん?」
「はい……」
「えっ、ほんと! 見て、優一くんの一個下!」
クラス表にある自分の名前の一個下を見た。そこにはひとりの女の子の名前があった。
「私、雪野楓。よろしくね!」
奇跡でもなんでもない出来事なのに嬉しそうに声を上げられる彼女が、僕には輝いて見える。
僕と全てが真逆であろう彼女を見て、ますます自信がなくなる。この人に恋する資格があるのかって。
「えっと、よろしく、雪野さん」
昔から親密な友好関係を築いたことがない。そんな僕がする会話はぎこちない。
「そんなにかしこまらないで、楓でいいよ。その代わりに、優一くんって呼ばせてね」
誰かを下の名前で呼ぶなんて久しぶりだ。流石に、さん付けはしたほうがいいよな。そう考えていると、友人らしき人が楓を呼んだ。
「友達来たから、もう行くね。またね、優一くん」
楓はそう言いながら靴を脱いで、友達と校内に入って行った。
今まで好きな人ができても、遠くから見ているだけの臆病者だった。最初の一歩が踏み出せなかった。それが今、自分からではないけれど、一歩進んだような気がする。
好きな人と会話ができたという事実が緊張をほぐし、固まっていた体が一瞬にして解けて、次の瞬間、目の前が真っ暗になる。
*
目は閉じたまま、どこかのベッドに寝ていることを理解した。
「おーい、大丈夫か。起きろー」
意識を取り戻して最初に聞こえた声は、男性の声だった。
さっきまでのは記憶は夢だったんだろう。あんなに可愛い女の子が僕に話し掛けるはずがなかったんだ。
目頭が温まり、視界が霞む。夢でもいいから、もっと、ずっと、あの空間にいたい。
僕はさっきの夢に恋々としている。
寂寥感が上瞼を下ろそうとしたとこで丁度、扉が勢いよく開く音がした。次に、さっきとはまた別の聞き覚えのある声が聞こえた。
「優一くんいますか⁉︎」
声が耳に入って反射的に体が起き上がる。視界に飛び込んできたのは、夢だと思っていた楓の姿。
「どうしたの?」
目を開けて僕が返事をすると、楓は安堵するように「よかった」と言った。ベッドの横の椅子に座っていた男子も目を覚ました僕に気づき、養護教諭を呼びに行ってくれた。
男子が先生を連れて来てくれて、簡単な診察をしてもらった。悪い所は無いらしいが、念のため、保健室で安静にすることになった。
横にいてくれた彼は楓と知り合いなのか、親そうに話していた。授業開始の五分前チャイムが鳴り、楓とさっきの男子は授業に戻り、先生もまた用事でいなくなった。
ひとり、静かな保健室で、ベッドに体を置いた。天井にある模様のようなシミを数えながら時間が過ぎていく。
四十分ほどが経ち、養護教諭が戻ってきたので、二時間目から授業に参加する旨を伝え、保健室を出た。
緊張で心なしか足取りが重い。そのうち一年二組に着いた。
「……初めまして」
一年二組――クラスに、入って軽く挨拶をしたが、一時間目にいなかった僕とみんなとの間にはどこか壁を感じる。
中学の三年間、また友達すらできない、平凡な日常を歩むことになるのだろう。そう考えながら、倒れたことを後悔していた。
僕は猫背でふらふらしながら机に向かい、椅子に腰を下ろす。
次の授業になにをするのか分からず、机に肘を付いておどおどしていると、さっき保健室にいた男子が話しかけてきた。
「お! もう体調はいいの?」
「うん、もう大丈夫。さっきはありがとう」
さっきはあまり見ていなかったけど、彼は目尻にホクロがあり、顔全体が整ったイケメンだった。俳優の息子と言われても信じるくらい、端正な顔立ち。
「全然いいよ。俺、柏葉渚。渚って呼んで。これから宜しくね優一」
彼の親しみやすい雰囲気で、緊張感が薄れていく。不思議なことに、彼は僕の名前を知っていた。
「あれ、言ったっけ?」
「いや、これに書いてあった」
渚がポケットから出したのは、本来胸ポケットに付いてるはずの僕の名札だった。渚が落ちてた名札を拾ってくれたらしい。
そこから少し話をして分かったが、倒れた僕を保健室まで運んでくれたのも渚だった。その後も色々してくれて、渚のおかげでクラスに少しずつ馴染めてきた。
二時間目が終わり、渚に話しかけようとしたが、他の人と話している。
僕から見て分かるくらいに渚は人付き合いが上手く、もうクラスで中心のような立ち位置にいた。流石のコミュ力で、多分女子にも人気だと思う。
そんな渚がちょっと羨ましい。

