「かい…と?」

呟きながら、その声がした方に視線を向ける。
するとそこには、あの夏消えてしまった、あの日からずっと探し続けていた海斗の姿があった。

夢?そう思いながら、自分の手をぎゅっとつねる。
ちゃんと痛い。夢じゃ、ない。


「海斗!」

溢れてくる想いと抑えられない衝動にかられ、露店のおじさんにお金を払っていた海斗に、気付けば横から思い切り抱きついていた。


「えっ…」

戸惑うような声と、固まっている体。
ぎゅっと抱きしめてみても、海斗は時が止まったように立ち尽くしているだけだった。


「バカ!!」
「へっ?」
「何してたの?どこにいたの?」
「や、えっと…」
「ずっと、探して…海斗のこと、みんな探して…」

そう言いながらその胸に顔を埋めると、涙がポロポロこぼれてきた。


「ちょっと、いきなりなんなんですか?やめてください!」

だけどそう言われ、誰かにぐいっと体を引き離された直後。私たちの間には何故か見知らぬ女の人が立っていた。


「何って、海斗が…」
「海斗って誰ですか?突然抱きつくなんて、おかしいですよ!」


おかしい?どうして?だって、海斗が目の前に…。


「海斗!」
「ちょっ、夕海。落ち着けって」


取り乱す私を、駿が後ろからそう言って抑えてくる。


「だって海斗が!」
「待て、夕海。あの、突然すみません。その彼が俺たちの友達にものすごく似てて。本当に…よく似てて。その友達は、三年前の震災で行方不明になったまま未だ見つかっていなくて」


冷静に、言葉を紡いでいく駿の声。
だけど目の前にいるのは確かに海斗で。
似ているなんて、そんな単純なことでは済まされないくらい、本当に海斗そのもので。


「何言ってるの駿。海斗だよ?ねぇ?海斗でしょう!?海斗!」


涙で滲んでいく視界の中、その目を見つめてただ名前を呼んだ。