躑躅家の玄関を開けて中に入った俺は走ってきた3人の姿を見て安堵した。

 時間は正午。

 キッチンからは美味しい匂いが俺の食欲をそそる。

 おそらく早苗さんが作っているのだろう。

 俺が安堵のため息をついた。

 そしたら、3人がドヤ顔を浮かべる。

「ねえ、お兄ちゃん!記者会見みた?」
「ああ。見た」
「やっとお兄ちゃんも立派な探索者になれるね!」

 理恵はとても嬉しそうに俺にダイブする。

 柔らかい黒髪と肌の感覚。

 そして、胸の膨らみ。

 理恵の体は鍛えられているが、大人の女性へと近づくにつれて、柔らかさが目立つ。

 俺は理恵の背中をさすってあげた。

 そしたら、友梨姉と奈々が頬を緩めて俺たち兄妹に愛のこもった視線を向けてきた。

 だけど、二人とも若干寂しそうにしている。

 なぜだろう。

「あら、ちょうどいいところにきたわね。お昼ご飯できたわよ。祐介も来て」

 エプロン姿の早苗さんは俺たちを見て優しく話しかけた。

 早苗さんの表情は前より一段と明るくなったことがすぐわかる。

 蘭子さんの働きは無駄ではなかったことが証明されたんだ。
 
 昼食を取る俺たち。

 メニューは早苗さんが作った生姜焼きだ。

 味は言わずもがな。

 だが、 

 気になる。

 美人姉妹はしきりに俺の方をチラ見しているのだ。

 俺が視線を送っても、二人は知らないふりをして食事を再開するものだから、やっぱり気になるのだ。

 早苗さんはそんな二人の姿を見て落ち着きがない様子を見せる。

 この空気はなんだろう。

 理恵は凄まじいスピードで早苗さんの料理を貪っているが、彼女を除く俺と躑躅家の母娘は互いに視線を交わすだけだ。

 俺たちを取り巻く問題が解決されたとたん、また新たな悩みの種が生まれる。

 気まずさを感じつつ、俺たちは食事を続けた。

 食後には、5人でグデーってなってスマホをいじっている。

 早苗さんはソファーで、理恵は友梨姉と一緒に床で横になっており、俺と奈々は一緒に俺のスマホを見ている。

 なんか5人全部リビングで横になっている光景はなかなかシュールだ。

 けれど、特にやることはない。

 花隈育成高校は、校長が殺されたからしばらくは臨時休校をするらしい。

 早苗さんは、状況が状況だけにテレビや映画の仕事は全部キャンセルになったらしい。

 なので、こうやってスマホをいじって今何が起きているのかチェックすることが、最も有益な時間の使い方だと言えよう。

「にしても、本当にすごいね。あんなに大きな事件だったのに、一般人の死者数がゼロだわ。軽傷を負った人は何人かいるけれど」

 友梨姉が関心したように呟いた。

 娘の声を聞いて、早苗さんが言う。

「そうね……元々誰かを巻き込むような子じゃな……人じゃないかな……あはは」

 ぎこちなく笑う早苗さんに美人姉妹は訝しむようにみる。

 俺は誤魔化すように咳払いをして、話題を逸らすことにした。

「そういえば、記者会見の感想、nowtubeのコミュニティにあげないとな!」
  
 言って俺がいそいそとスマホをいじっていると、隣にいる奈々が目を細めて心配そうにつぶやいた。

「チャンネル登録者数1500万」

 彼女の言葉に釣られて俺のチャンネルを念入りに見てみたら、

「あ、本当だ。1500万人になってる……すごい」

 気づかないうちに美人姉妹のチャンネル登録者数を超えてしまっていた。

 奈々のやつ、きっとちょっかいを出してくるに違いない。

『ほお、私たちを追い抜くなんて、生意気よ。ひひひ』

 みたいな反応を示すに違いない。

 そう思って奈々を見ていたら、

 彼女は不安そうに俺から目を背けていた。
 
 真っ白な頸が丸見えで儚い姿だ。

 奈々は気が強く見えても、実のところ、そうではない。
 
 俺は奈々の髪を撫でる。

「……祐介」
「なんか悩みあるだろ?」
「……」
「言って」
「……」
「言わないと怒るよ」
「……わかった。夜に言う。お姉ちゃんと一緒に」
「了解」

 奈々は俺に強く言われたことで拗ねているのか、頬を若干膨らませている。
 
 けれど、口角は吊り上がっている。

 奈々と友梨姉は俺に言いたいことでもあったのか。

 俺が気になって友梨姉に目を見遣れば、彼女は何か決心したようにその鮮明な青い瞳で俺を捉えている。

 夜になった。

 出前でピザを頼んだ。
 
 それを食べ終えた俺は、風呂に入るべく服を脱いだ。

 洗面台の鏡に写っている自分の上半身。

 なぜか以前より筋肉がついている気がする。

 理恵と同様、俺も大人の体になってゆくのだろうか。

 俺だけじゃない。

 奈々も友梨姉もいずれ……

 いや、二人は十分すぎるほど立派なものを持っている。

 奈々は今日も俺の腕に胸をくっつけてきたもんな。

 欲を言うと、ずっと感じていたかった。

 できれば友梨姉のものも。

「何考えてんだ……蘭子さんの問題が解決するまで我慢するって決めたじゃねーか」
 
 と、鏡に手をついてため息をつく俺に、
 
 聞き慣れた声が聞こえてくる。

「祐介くん、らんこって誰かしら?」
「もしかして、アイドルグループD小町の桐生蘭子のこと?」

 いつの間に入ってきた友梨姉と奈々はタオル一枚巻いた姿で、俺を睥睨する。

 色褪せた目からは、絶対逆らってはならない雰囲気が漂っている。

「い、いや……なんで入ってくんだよ?先に使うなら、俺出る」

「「お背中流してあげる(・・・・・・・・・)」」

 二人とも絶世の美女と呼ぶべき美貌の持ち主ではあるが、この異様な空気は俺の肌を逆撫でするようで、いやでもホラー映画のとあるシーンが脳裏をよぎりまくりだ。