SSランクのダンジョン

 SNS上での書き込みを見ながら俺はいつものSSランクのダンジョンにやってきた。

 外は大騒ぎだと言うのに、ここは異様に静かだ。

 どうやらみんな、俺の考えが知りたいらしい。

 なので俺も見て見ぬふりをするわけにはいかない。

 ちゃんと自分の考えをみんなに伝えるのだ。

 と考えながら、浮遊スキルでスマホを浮かせ、生配信を始めた。

 人が入る。

 前と比べものにならないほどの勢いで入ってくる。

 200万、300万、400万……

 気がつけば2000万人余りの視聴者が入っている。

『でんこ様のライブだあああ!!』
『待ってました!!!』
『血に女王様のことをどうするつもりですか??』
『ダンジョン協会を始めとする既得権益を守るのか?』
『既得権益をぶっ壊せ!!』
『何もかもぶっ壊せ!!どうせ俺は負け組だからどうなろうがどうでもいい。全部壊し尽くせ!』

 目で追うことすらできないほどのスピードでコメントが更新されてゆく。

 蘭子さんを擁護する反応がほとんどだが、

『早く国会議員を助けろ!!!お前がやらんとこの国は滅びる!!!』
『ニュース見てねーのか?早く助けろ!!』
『血の女王を殺せ!!』

 わずかながらダンジョン協会や国会議員らを守れと命令口調で訴えてくるものもいる。

 様々な意見が飛び交う中、俺は密かに口を開いた。

「おはようございます。朝早いのにこんなに見てくれるなんて、嬉しいです。いいねとチャンネル登録をお願いします」

 そう。

 いくら緊急事態だからといっても、いいねとチャンネル登録は大事なのだ。

『でんこ様ちゃっかりしてんな』
『したで』
『くっそが、勿体ぶらずに早くダンジョン協会と国会議員を助けろ!』
『さっきから偉そうに既得権益を助けろとか言ってる奴まじうざ。ひょっとしてダンジョン協会か国会議員らから甘い汁を吸いまくっているやつだったりして』

 なんか視聴者同士で言い合ってる。

 そんじゃ、始めようか。

「みんな、落ち着いて俺の話を聞いてください。俺が今ライブ配信をしたのは他でもありません。今起きていることについて、自分の立場や考えを伝えるためです」

 俺が話すと、荒れまくっていたライブチャットは、冷や水を差したように静まり返った。

 俺は真面目な顔で、遠回しな言い方など排除して淡々と言って退けた。

「俺がダンジョン協会や国会議員らを助けることはありません。この国において俺は無能力者以外の何者でもありません。こんな小市民に国の中核を担う偉い人を助けるなんぞ、勤まるわけがありません。もちろん、血の女王がやっていることを止めるつもりはありません」

 しばしの沈黙が流れる。

 そして、

 一気にコメントが流れた。

『そうこなくちゃ!!』
『無能力者認定した組織を守るなんて、そんなの矛盾してるんだよな』
『仮に助けたとしても、でんこ様は何も得られないわけだし、お偉い人たちしか得してないよな。助ける意味皆無』
『すっきりした。血の女王様が全部壊し尽くすことを願う』
『何もかもぶっ壊せ!!』
『正しい判断。自浄作用もできない組織は潰して当然』

 ほとんどの視聴者が俺の意見に賛同する反面

『馬鹿馬鹿しい!お前はテロリストと同じやつだ!』
『俺たちを助けずに血の女王を野放しにするんだと?お前は犯罪者だ!』

 と、いかにもお偉い人と関わりのありそうな視聴者のコメントも散見される。

 別に俺は誰の味方でもない。

 俺は、
 
 俺の正義を貫くだけ。

「あと、一つ付け足してもらいます。現在、騒ぎに乗っかって襲って物を盗んだり、人を襲ったりする事件が増えていますけど、なんの罪もない人に被害を与えることはあってはなりません。もし、そういう人がいれば、俺は全力を尽くして、そういう人たちを徹底的に始末します。だから、もし、そういう考えを持っている人がいれば、やめた方がいいです。俺に勝てる自信があれば話は別ですが。俺はこの国が好きです」

 と、とても低いトーンで言うと、

『すっげ……でんこ様、まじ考えることが違いすぎる』
『いっそのこと、でんこ様がダンジョン協会の会長になればもっと世の中は幸せになれるのにな』
『でんこ様が国のトップになれよ!』
『やべ……でんこ様がダンジョン協会の会長になれば、差別なくなると思うよ。ワイ激推し』
『いっそのこと、でんこ様がこの国を乗っ取れば?』
『正直に言って、今の偉い連中よりでんこ様一人の方が圧倒的に有能だよね』
『でんこ様、やっちまえ』
『血の女王と手を組んだら?』
『世界を変えてくれ』


 視聴者は俺を祭り上げ始めた。