いなくなった血の女王。

 相変わらず雪は降っていて、隅田川は凍りついたままだ。

「……」

 この構図ってまずい気がする。

 多くのドローンが飛んでいて、俺たちの様子を撮影中だ。

 勝手に撮っているからには、こちらも勝手にやらせてもらうぞ。

 俺は天を仰いで唱える。

「防御膜」

 すると、回転するプロペラに防御膜が現れ、回転が止まる。

 全てのドローンは落ちてしまった。
 
 まあ、壊れない程度には手加減したからいいだろう。

 俺は安堵のため息をついた。
 
 そうすると、友梨姉と奈々がたたたっと小走りに歩いてくる。

「祐介くん、心配してたわよ」
「そう。本当にハラハラしたんだから」

 制服姿の二人。

 相変わらず非現実的な美貌だ。

 美貌だけじゃない。
 
 俺のことを本気で心配しているこの切ない顔を見ると、なぜか俺が重罪を犯した罪人になった気分だ。

「悪い……連絡もせずにモンスターと戦ったりして……」

 若干頭を下げて謝罪の意を評した。
 
「ううん。モンスターと戦うのはいいの。格好良いし、こんなに強い人が私たちとあんなことをして(・・・・・・・・)、家族になって、私たちを守ってくれているんだな思うとめっちゃ嬉しい」

 あんなことってどういうことですか。

 うん。

 心当たりがありすぎて、困る。

 それにしても、奈々っていつも小悪魔っぽく俺を煽るところがあるけど、今の奈々って、なぜか切羽詰まっている印象だ。

 前にかかった髪をかきあげたり、俺を直視できなかったり、スカートをぎゅっと握り込んだりと情緒不安定のようだ。

「そうね。祐介くんは私たちの家族だから、一緒にお風呂に入ることも寝ることもできるけれど……やっぱり不安になるわ」

 友梨姉……

 頬をピンク色に染めてモジモジするのやめてくれないか。

 本当に

 一応霧島を含む特殊部隊員たちが見ているぞ。

 声は遠いから聞こえてないはずだが……

モンスターを倒すことに問題はないというなら、この美人姉妹は俺の何を心配しているんだろう。

 二人の後ろにいる理恵に視線で答えを求めるが、理恵は笑っているだけだ。

 でも、なんかいつもの笑顔とは色合いが違う。

 目が全然笑ってないんだけど……

 どうすればいいかわからない俺の耳に二人は耳打ちする。

「「初対面の女たちにモテモテね(・・・・・・・・・・・・・)」」

「っ!!!!」

 二人の色っぽくて低い声に鳥肌が立った。

 俺は離れようとしたが、奈々が俺の腕を強く掴んで、爆のつく自分の巨大な胸に埋める。

「な、奈々!何をやってるんだ……人たちが見てるぞ」
「……」

 だが、俺の抵抗に奈々は全く聞く耳を持たず、目を細めて誰かを見つめる。

 ずっと無言のまま俺たちを見ていた霧島だ。

「……」

 奈々は殺気を剥き出しにして、霧島をキツく睨んでいる。

 同時に、彼女の腕により一層力を入れて、俺の腕を極上の柔らかいマシュマロに取り込む。

 谷間に完全に挟まれてしまった腕から伝わる柔肉に俺は言葉も発せられなかった。

 異物を徹底的に排除するような赤い目。

 さしものSランクの探索者といえども、奈々が漂わせる雰囲気に圧倒されたように後ずさる。

 ったく……

 奈々のやつ。

 余計な心配しやがって……
 
 俺は奈々を後ろから抱きしめた。

「っ!祐介!?」
「家に帰るぞ」
「……うん」

 理恵は最初こそびっくりしたものの、俺に自分の体全てを委ねる。

 俺は後ろにいる理恵に問うた。

「理恵、友梨姉のこと、問題ないよな?」

 理恵は自分の胸をムンと逸らし、自信満々な様子で返答する。

「任せて!」

 俺は魔力ブーストを使い、飛び上がる。

 それと同時に、理恵が友梨姉を抱えて風魔法で飛び上がった。

「おい、奈々……なんで俺の頬に顔擦ってくるの?ちょっと前見えないんだけど?」
「……」

 俺に言われた理恵はぶんむくれてもっと激しく顔を擦ってきた。

 亜麻色の髪とマシュマロのような肌が俺の頬に触れ、とても甘い香りが俺の鼻を刺激し続ける。

 家に到着した俺たち。

 てか、奈々ってなんで俺にくっついてるままなんだ?

 マシュマロから抜け出して俺の腕を休憩させたいところだけど。

「お帰り!」

 歓迎してくれるのは長い亜麻色の髪をした私服姿の美女。

 どう見ても外見は20代半ばだが、友梨姉と奈々を産んだ母だよな。
  
「ふふ、テレビで祐介のこと、いっぱい見てたわよ。奈々が妬くのも当然ね」
「……お母さん!」

 奈々は頬を膨らませて言う。

 なんか反応がいちいち可愛すぎるけど……

 俺が奈々のあまりの可愛さについ目を逸らしてしまった。

 視線の先に見えるのは友梨姉と理恵。

 てか、友梨姉、なんで理恵をずっと抱きしめてんだ?

 しかも二人とも口角吊り上げて俺の顔めっちゃ見てるし……
 
 俺が困り顔でいると、早苗さんが口を開く。

「ちょっと遅れちゃったけど、焼肉パーティーやるわよ。祐介はキングアイスドラゴンとの戦いでエネルギーをたくさん使ったわけだし、疲れたでしょ?」
「あはは……」
 
 モンスターとの戦いで疲れたわけじゃないんだよな。

 大勢の前で3人と一緒にいたから精神的に疲れた。

 なんだろう。

 3人はキングアイスドラゴンより強いとでもいうのか。

 と、俺がげんなりしていると、早苗さんが俺に近づいて、俺の手をぎゅっと握り込む。

 それから、早苗さんは俺の手をご自分のデカすぎる爆乳に持って行った。

「っ!」

 戸惑う俺に早苗さんは甘い声で囁く。

「お肉、たくさん用意しておいたから、好きなものを心ゆくまでいっぱい食べてね」
「は、はい……お言葉に甘えて」
「うふふ」

 お母さん……

 そう思わせるほど早苗さんの表情は俺の全て受け入れてくれそうだ。

 だが、

 前回の時と比べていささか不自然だ。

 動揺が混じっている。

 ひょっとして早苗さんは血の女王と知り合いだったりするのだろうか。

 そんなあらぬ考えが俺の脳裏をよぎった。




追記


もうすぐ星3000超えそうなので、ご協力お願いします!!