地面に叩きつけられた荒波は一瞬白目を剥いたが、押し寄せてくる激つに体を縮こませて呻き声を上げる。

「荒波!」

 マグマの使い手の霧島が叫ぶが、キングアイスドラゴンは聞き流し、荒波を手で掴んで飛び上がった。

「キイイイ!!!」

「こ、この!荒波を返せ!マグマ!」

 怒る霧島は、手を上げて、飛んでいるキングアイスドラゴンにマグマを撃ち放った。

 すごい威力だ。

 だけど、

 キングアイスドラゴンは方向を変え、彼女の攻撃をあっさり避けて見せる。

 やつが向かっている場所。

 それは

「隅田川……」

 そう。

 やつは浅草から近い距離にある隅田川に向かって飛行している。

「待て!荒波を下ろせ!!」

 マグマをぶっ放しながらキングアイスドラゴンの後ろを追う霧島。

「ったく……マグマを見境なくぶっ放すと文化財とか建物が溶けちゃうだろ……」

 と、ため息をついて俺は防御膜を張りながら彼女の後ろをついて行った。

 しばし走ると、やつは隅田川の上で止まった。

 それから、奇声を上げて、隅田川に息を吹きかける。

「キイイイイイ!!!」

 すると、川はわずか3秒足らずで凍ってしまった。

 もうすぐ夏が訪れようとしているのに、隅田川付近はキングアイスドラゴンによって真冬と化した。

「荒波!!助けにいく!」

 霧島は完全に理性を失っている。

 彼氏なの?

 って思わせるほど、霧島は本気だった。

 だけど、彼女を行かせるわけにはいかない。

 なので、霧島の腕を掴んだ。

「やめろ!お前じゃキングアイスドラゴンを倒せない」

 俺の言葉を聞いた霧島は強く俺の手を振り払う。

「っ!」
「ふざけないで!私は火属性を極めたSランクの探索者なの!私のマグマが、あの氷属性のドラゴンに通用しない訳が無いわ!」

 どうやら現実がわかってないようだ。

 なので、俺は現実を教えてやることにした。

「よせ。お前のマグマじゃ、キングアイスドラゴンに擦り傷も与えられない」
「何を言って……」
「マグマと言えど1000度くらいだ。そんなの、奴にとって悪戯レベルだよ」
「……」
「それに、お前の彼氏はすでに戦闘不能だ。キングアイスドラゴンの氷魔法をなめちゃダメだぞ」
「氷属性のモンスターなんか、火属性より下じゃん……それが常識なのに」

 霧島が抗議するようにいうが、俺はお前の持つ常識がどういうものなのか知ってないし、知りたくもない。

「一般的ならそうかもだが、キングアイスドラゴンの放つ冷気は絶対零度に限りなく近い。やつは膨大な魔力の持ち主だ。お前のマグマなんか軽く丸ごと凍らせるんだろう。そもそもお前たちはいくら足掻いても、やつの足元にも及ばないんだ」
「……」

 俺の話を聞いた霧島は黙りこくったまま顔を俯かせる。

 こいつはプライドが強い系の女の子だ。

 よって、中卒とか言いながらまた俺を罵倒してくるんだろう。

 そう思っていた

 が

 霧島は荒波のいる隅田川に突っ込んだ。

「あの馬鹿野郎……」

 俺がげんなりしていると、霧島は体にマグマを溢れさせ、荒波を握っているキングアイスドラゴンの方へ行く。

 悔しいからか。
 
 自分より下だと思っていた人から説教じみたことを言われたから、プライドが許さなかったのか。

 所詮こいつはそういう程度の人間だ。

「荒波!!私が助けるから!!」
「っ!?」

 助けるために行くのか。

 人を見下すことしか能がないやつのどこが好きって言うんだ。

 でも、霧島の仲間想いな瞳に嘘偽りはない。

「キイイ!?」
 
 彼女の気迫に驚いたキングアイスドラゴンは荒波を落として身構える。

「はあああ!!私の全て、見せてあげる!マグマ、最大出力!!!」

 霧島は手を伸ばし、マグマをキングアイスドラゴンに向かって発射する。

 まるで赤いビームが出ているようだ。

 キングアイスドラゴンは口を大きく上げて青いビームのようなものを放つ。

「はあああああああ!!!!」

 霧島は力を振り絞ってマグマを放っているが

 理想と現実にはギャップがあるすぎた。

 絶対零度。

 キングアイスドラゴンのビームのようなものは、霧島が放ったマグマを瞬時に凍らせ、やがて彼女をも凍らせようとする。

「う、うそ……あり得ない……私のマグマが……これまで氷属性のモンスターに一度も負けたことのないこの私が……」

 やっと悟った霧島。

 だが、時すでに遅し。

 身体強化を使わねば
 
 俺は彼女を抱いて、キングアイスドラゴンの攻撃範囲から離れた。

 キングアイスドラゴンがもっと暴れて関係ない人に被害を及ぼす前になんとかしないと。

 とりあえず保険をかけとこう。

 俺は彼女を下ろして冷たい口調で言った。

「これから俺がやつを倒すんだ。だから、邪魔するな(・・・・・)!」
「っ!!」

 俺の叫びに霧島が上半身をひくつかせて、目を丸くする。

 だが、やがて瞳を潤ませて問うた。

「……荒波は……どうなる」

 彼女の問いに俺は

「なんとかする」
「……」

 霧島は頬をピンク色に染めた。

 体調でも悪くなったのか。

 だったら邪魔しないでここでじっとしてくれ。

 それが俺にとっての助けになるんだから。

 俺は凍った隅田川へ向かった。

 そしたら、キングアイスドラゴンが呻いている荒波を殺す勢いで睨んでいる。

「ん……くっそ……俺は精鋭部隊だ……やられてたまるかよ……」

 苦しみながらもやつは立ち上がり、全身を金属に変える。

 だが、さっき攻撃された凍った手には魔力が入らないようだ。

 荒波はよろめきながらも、キングアイスドラゴンを睨んでいる。

「防御力最大!!お前は、俺を倒せないんだ!!」

 荒波の挑発にキングアイスドラゴンは怒り狂ったように羽を動かし、口から青い光線を発射しようとする。

 哀れなやつだ。

 俺は荒波の前に立った。

「おい」
「あ?」
「ここはお前が格好つける場所じゃないんだ」
「お前は……中卒」

 戸惑う荒波に俺は告げる。

邪魔だ(・・・)どけ(・・)

 言って、俺は荒波を蹴り上げた。

「ブッ!!」

 全身がチタニウムになった荒波は俺のキックにより意識を失い、目に見えないところに飛んでしまった。

 それと同時に、

「クウウウウウ!!!」

 キングアイスドラゴンの青いビームのようなものが俺の方へ放たれる。

 俺は手を伸ばして、唱える。

魔力融合(・・・・)
 
 俺はキングアイスドラゴンが発した青い光に包まれた。

 絶対零度に限りなく近い冷気が俺を包んだのだ。



X X X
 
3姉妹side

「祐介!!」
「祐介くん!!」

 亜麻色の髪をした制服姿の美人姉妹はテレビのライブで祐介たちの姿を見て心配の表情を浮かべる。

 そんな二人を落ち着かせるべく、優しい声音で言う。

「友梨お姉ちゃん、奈々お姉ちゃん。心配しなくていいよ」
「「……」」
 
 友梨と奈々は妹の理恵を見て、自信なさそうな顔をしている。

 理恵は笑顔を浮かべ言葉を発する。

「お兄ちゃんはとんでもなく強から!」

 妹の天真爛漫な表情を見て、友梨と奈々は口角を吊り上げる。

「そうね。私たちの祐介が、あんなドラゴンに負けるはずがない」
「理恵の言葉を信用するわ。ずっと祐介くんを見てきものね」

 安心する二人に理恵はにっこり笑う。

 だが、理恵の紫色の瞳の色彩がだんだんなくなってゆく。

「でも、ちょっとお兄ちゃんのことが心配だから、行ってみようかな」

 妹の言葉に、二人の美人姉妹の瞳も色を失ってゆく。

「「そうね」」

 ヤンデレ顔の3人は二人の画面に写っている金髪美少女の霧島を見つめる。

「「「ふっ」」」