「んだと!?」

 キレた荒波は俺の胸ぐらを掴んでくる。

 拳は金属のようなものに変わっている。

 チタニウム。

 土属性の上級スキルか。
 
「おい中卒、つけあがんなよ。俺の拳一つでお前は死ぬから」
「……」

 やつは本気で俺を打つ気のようだ。
 
 俺が身構えようとしたが、霧島が彼を落ち着かせる。

「荒波、何むきになってんだ。ばっかじゃん!あんなのはキングアイスドラゴンを倒してからパシリとして使えばいいさ」
「ああ、そうだな。あはは!お前ら、邪魔すんじゃねーよ」
 
 荒波は俺を嘲笑ったのち、渡辺さんとその配下のものを睥睨して霧島を連れてキングアイスドラゴンのところへ向かった。

 取り残されたのは俺と渡辺さん含む6人。

「申し訳ない。俺が代わりに謝ろう」

 先に口を開けたのは渡辺さんだった。

 部下4人と共に頭を下げている。

「あなたたちは悪くありません」

 俺が言うと、渡辺さんが心配そうに言う。

「このままだと、まだ避難してない人たちと浅草の文化財が……自衛隊と警察だけじゃ人手が足りん」

 彼の言う通り非常に厄介な状況になってしまった。

 早くなんとかしなければ……
 
 俺は戦闘に向いている。

 渡辺さんは戦闘能力はあの無礼な二人と比べて弱いかもしれないが、人生経験があり、指揮官としての判断力に長けている。

「渡辺さんたちは人を避難させてください。俺はキングアイスドラゴンと特殊部隊員たちが文化財を壊さないように守ります」

 俺の提案に、渡辺さんは安堵のため息をついた。

「わかった。でも、守るだけじゃ、問題は解決しない」
「それに関しては大丈夫です。ちゃんと俺がやつを倒しますので」
「……君のいうことだ。考えがあるんだろう」

 と、渡辺さんは納得顔でうんうん言いながら部下に命令する。

「伝説の拳様の言う通りにする。異論はないな?」

「「ありません!」」

 気合の入った4人の声に満足した渡辺さんは早速人が集まっているところへ向かった。

 一人残され俺は、キングアイスドラゴンと戦っている特殊部隊員らを静観しながら防御膜をいつでも張れるように神経を集中させる。

 10人ほどの特殊部隊員らによる攻撃。
 
「キイイ!!キイイイ!!!」

 やつの叫びに特殊部隊員らは動揺する。

「クッソ!さすがSSランクといったところか……丈夫すぎる」
「諦めるな!」
「俺たちはやれる!」

 若干疲れた彼らは荒波と霧島の姿を見て千軍万馬の支援を得た兵士の表情をする。
 
「精鋭部隊の荒波と霧島だ!」
「この間、あの二人はSSランクのキングダンジョンウサギを倒したんだよな。特殊部隊の誇りだ」
「二人と一緒なら、問題なくあのドラゴンをやっつけられるぞ!」

 キングダンジョンウサギか。

 俺がSSランクのダンジョンの攻略を始めた頃に倒したやつだ。

 SSランクのダンジョンの中で最も弱いんだったよな。

 なのに、そんなモンスターを倒した程度で、あんなに拝められるのか。

「さ!やっと俺たちの番だぜ!霧島!頼んだ」
「オッケー。任せときな」

 荒波は左右の拳を金属に変え、霧島がその拳にスキルをかける。

「マグマ」

 霧島がいうと、荒波の拳は赤くなり、今にも溶け落ちそうなマグマと化した。

 傲慢な態度は虚勢じゃなかったってわけか。

 マグマ。

 火属性の上級スキル。
 
 某海賊漫画のように、マグマは火より強い。

 硬い金属とマグマの組み合わせでキングアイスドラゴンと戦おうとしていたのか。

 氷は火に弱い。

 つまり、属性だけ見ると、あの二人に軍配が上がりそうだ。

 荒波はドラゴンのいるところに飛び上がって唱える。

「あははは!喰らえ!チタニウム・マグマパンチ!!」

 やつのマグマを帯びたパンチは、ドラゴンに的中する。

「キイイイ!!」

 ドラゴンは悲鳴を開けた。

「まだ、始まったばかりだぞ。オラオラオラオラ!!」

 やつはガトリングガンを打つように、キングアイスドラゴンに数え切れないほどのパンチをクリティカルヒットさせる。

 十数秒間続く荒波のパンチに、周りの特殊部隊員らが感動する。

「さすが荒波霧島コンビは最強だよな」
「若いのに、あれだけの戦闘力。素晴らしい以外の言葉が思いつかない」
「私もいつかあの二人のように……」

 羨望の眼差しを向けられて二人は口角を吊り上げる。

「これで最後だ!はあああ!!」
「キイイイイイ!!」

 荒波はありったけの力を込めて、キングアイスドラゴンの顔面を打つ。

 キングアイスドラゴンはまた悲鳴を上げて、墜落する。

 浅草寺本堂へ

「おいおい、文化財をなんだと思ってんだ。全く……」

 俺は手を伸ばして、浅草寺本堂に防御膜を張った。

 幸いなことに、キングアイスドラゴンは俺の防御膜に弾き返され、砂埃を上げながら地面に落ちた。

 同じく地面に着地した荒波は笑い声を上げる。

「なんだ。別に大したことねーじゃん。がっかりだぜ。いや、俺が強くなっただけか」

 驕り高ぶる荒波に霧島がやってきた。

「私のマグマのおかげであることを忘れちゃだめっしょ!あ、今ドローンが私たちをめっちゃ撮ってる!」

 霧島はドローンのカメラに向かってピースサインをする。

 二人は勝利を確信しているみたいだ。

 だけど、

 二人は知るはずがないんだろう。

 もうすぐ俺の出番がやってくる事を。

「キイイイ……」

 砂埃が鎮まり、キングアイスドラゴンの姿が現れる。

 やつは、全身から冷気を放っており、殺気をむき出しにしている。

 前とは比べ物にならないほどの威圧感。

 どうやらやつは本気を出すつもりらしい。

「しぶといやつが。何回やっても結果は変わらんのによ!」
「マグマの出力、上げるね!」
 
 霧島によって、濃い赤い光を放つ荒波の拳。

 荒波はキングアイスドラゴンへ全力で駆ける。

「はあああああああああ!!!くたばれええええ!!!」

 荒波の一撃。

 だが、

 キングアイスドラゴンは、彼の攻撃を手で防ぐ。

「っ!」

「キイイイイ……」

 キングアイスドラゴンは荒波を睨んで魔力を拳に流し込んだ。

 すると、冷気はドラゴンの手を伝い、荒波の拳と腕に移動する。

 マグマは徐々に消え、気がついたら

「な、なんだ……これは……」

 荒波の片腕が氷に覆われてしまった。

「荒波!何ぼーっとしてんの?氷に覆われたくらいで戸惑うなよ。氷を壊して離れて」

 霧島の言葉を聞いても、荒波は動けない。

「いや、違う……氷だけじゃない……」
「何言って……」

 困惑する荒波。
 
 キングアイスドラゴンはそんな彼に猶予なんか与えないと言わんばかりに、荒波を手で掴み、

「キイイイイイイ!!!!!!」

 地面に叩きつけた。

「おっ!」