断る理由はない。

 だって、実際二人は長くnowtuberとして活動をしていて、いわゆる大先輩のようなもんだ。

 二人のファンのことが少し気になるのだが、予定ないのに断っても、それこそおかしい人間として認識されかねない。

 場所はいつもの高砂コーヒー店。

 あそこは事情を知っているオーナーのおかげで他の場所と比べて居心地がいい。

 でも、その前に

「部屋の掃除でもすっか」

 名無しさんの言ったように初心を忘れてはならない。

 俺の役目はあくまで理恵を立派な人間に育てることだ。

 最近は炎上騒ぎだの、配信だの、キングゴーレムだので家事が出来てない。

 俺は気を入れ直して呟く。

「勘違いすんなよ」

X

高砂コーヒー

「あの二人がまたここに?」
「はい」
「あははは!なかなか好かれてんな。付き合えば?二人とも」

 このイケメンおっさん、俺の胸を突いてニヤニヤしていがやる。

「何言ってんすか。配信者として経験が浅い俺に色々教えにきてくれるだけなんで……」

 と、高砂さんにジト目を向けていたら、「こいつわかってないんだな」って感じで俺を見てため息をつく。

「女の子はな、いくら時間が有り余っていても、好きじゃない男とは絶対時間をともにしたがらない生き物。異性ならなおさらだ。でも、あの二人は生配信を終えたばかりの君に会いたがっている」
「あんたも見てたんか……」
「まあ、そりゃ不安だろうな」
「めっちゃ不安でしたよ。変な質問投げてくるし」
「うんん、君じゃなくて二人がな」
「え?」

 わけがわからなかったから俺が視線で問うても彼は答えずに微笑みながら俺の背中を強く叩いた。

「いたっ!」
「しっかりしろよ。君が不安を感じてどうすんだ」
「……」
「有紗ちゃん、祐介くんを席に案内してくれ」
「は、はい!」

 有紗姉。

 高橋有紗。

 彼の姪だ。

 俺が休みの時にオーナーを手伝ってくれている。

 金髪ギャルっぽい見た目だが結構真面目な人だ。

 有紗姉に周りから目立たない四人テーブル案内された俺がしばし待つと制服姿の二人がやってきた。

 いつ見てものあの現実離れした外見には慣れない

 二人は俺を見て、安心したように凶暴な胸を撫で下ろす。

 そして、俺の目をじっと見つめて

「祐介」
「祐介くん!」
 
 俺の名前を呼んだのち

「「んふ」」

「……」

 俺の心を締め付けるような熱い視線を向けてくる。

 理恵は学級委員の仕事があるから遅れてくるそうだ。

 二人が腰掛けると、有紗姉がやってきた。

「ご注文は決まりましたか?」
「有紗姉さん、俺はいつものやつで」
「ふふ、わかった。んで、お二人は?」
「「……」」

 友梨姉と奈々の顔がおかしい。

 目には青と赤い瞳には色彩がなく、有紗姉を殺す勢いで睨んでくる。

「っ!!!!ど、どうかしましたか」
「私、祐介と同じもの」
「私も、祐介くんと同じものお願いします」
「か、かしこまりました!!でででは、すぐ準備しますので!」

 有紗は二人に怯えるようにして立ち去る。

「どうした?二人とも」

 それとなく聞いてみるが、二人の瞳には色がない。

「大丈夫だよ」
「大丈夫」
「いや、全然大丈夫じゃない顔してるよ」
「ダブルスタンダードはよくないから」
「ダブルスタンダード?」

 なぜなんの脈絡もなく、ダブルスタンダードが出てくるんだろう。
 
 友梨姉の言葉に俺がキョトンを首を傾げると、奈々が頬を膨らませ言う。

「あの美人店員さんと仲良いんだなって」
「いや、あの人はオーナー姪でたまに仕事一緒にするだけだよ」

 なんで二人は切羽詰まった表情で俺を見つめてんだ?

 美人で言えば、二人の方がもっと上だろ。

 俺が疑問に思っていると、友梨姉が何かを思い出したように目を丸くしてから言う。

「やっぱり、今日祐介くんに会いに行って大正解だったわ」

 姉の言葉を聞いて、妹の奈々がいう。

「今朝みたいに、視聴者とのやりとりはする必要ないの。祐介は狩りをしている姿を見せれば、それでいい」
「……」

 なぜか言葉に圧が感じられるのは気のせいだろうか。
 
 俺が戸惑っていると、友梨姉が身を乗り出して俺の手をぎゅっと握って。

「不特定多数の中には変な人がいっぱいいるの。だからね、気をつけないといけない。特に()には気をつけないといけない」
「女?」

 なぜいきなり女という単語が出てくんの?

 てか、友梨姉、俺の手をあまりも強く握ってくるから痛い。

 そんな俺の手の痛みを知らない奈々が心配そうな視線を向けてくる。

「祐介、世の中には悪い女たちが多いよ。祐介の強さを利用して自分の欲望だけを満たそうとするさがくんの女版的な?」
「さがくんの女版!?それは悪い人だろ!っ!友梨姉」

 手、痛すぎるよ。

 友梨姉は俺をじっと見つめながら言う。

「そう。とっても悪い人なの。だからね、祐介くんが私と奈々を守ってくれたように、私たちも祐介くんをどろぼ……危ない女から守ってあげたい」
「……友梨姉」

 本当に優しい人達だ。

 貰った恩をちゃんと返してくれる良い人。

「……悪い。そうしてくれると助かる」

 俺の返事を聞いた二人は、口が裂けるほど口角を釣り上げた。

 友梨姉はやっと俺から手を離してくれた。

 そしたら早速奈々が訊ねる。

「ところで、祐介ってどんな女性が理想なの?」
「ん?なんで聞く?」
「今後のためにね」

 今後のためか。

 つまり、配信と俺を変な女から守るのと関係があるのだろう。

「特に考えてないけど、まあ、家族みたいな人がいいかも」

 俺が恥ずかしそうに言うと、二人は満足したように笑みを浮かべる。

「家族は大事だよね。わかるわかる。私も欲しいんだ。パパみたいな男をね」
「……」

 奈々の色っぽい表情から発せられた言葉に俺の脳が痺れる。

 そんな俺に追い打ちをかけるように友梨姉が言う。

「そうね。躑躅家に男はいないものね」

 友梨姉は慰めるように奈々の頭をなでなでする。

 映画女優顔負けの二人がくっついているところを見ると、男子禁制みたいな感じがして背中がムズムズする。

 俺は気を紛らそうと、二人に訊ねる。

「そ、そんな二人はどんな男が理想?」

 俺の問いに

 二人は図ったように同時に俺を見つめてきた。

 そして

 とろけ切った顔で

「「私たちを守ってくれる男がだああああああいすき(・・・・・・・・・・)」」


 まるで糸によって操られているように

 俺はこの姉妹から視線を逸らすことは出来なかった。

 それと同時に、俺が二人を守っら時の場面が脳裏の過ぎる。

 勘違いするなと自分を戒めて来たのに。

 もしかしてこの二人は……

(固まってしまう有紗)