いわゆる東京めいた東京のキラキラした人たちからは田舎と呼ばれ、 緑あふれ鳥さえずる、真の田舎の人たちからは都会と呼ばれるような。そういう、中途半端で冴えない町に僕は生まれた。
 普通すぎるほど普通に、真っ直ぐに、どこまでも平凡に歩んできた自負がある。
「わたしね、映画の中だけじゃなくて、本当に病気なんだよ」
「……はあ」
 文芸部の部室に、のんびりと美しい少女がいた。
 彼女が読んでいるのは、忌々しい余命物の小説。幾度となく読んでも飽きないのか、彼女は毎日こいつを開いている。
 数年前に実写映画化されたので、そのイメージカット――我が兄いわく、特大帯や全面帯、幅広帯というらしい――が本来のカバーを隠すように巻かれ、また主演女優の顔の下には、累計発行部数300万部突破! などとデカデカしく刻まれている、そういう本。高校生女子に人気の本ランキングに、昨年もしぶとく入っていたやつ。
雪谷(ゆきたに)くんったら、また生返事して! わたしの言葉、信じていないんでしょう?」
「そうっすね。花崎(はなさき)先輩」
 しつこく絡んでくる彼女の名は、花崎はなみ。僕より二つ年上の高校三年生。
 先輩が読んでいる本を包む帯にも、主演・花崎はなみ、とある。――そう、まさに。
 このひとは、かの映画で主演を務めた、現代日本人なら誰もが知る女優であった。