洞の中はかなり広いようで、しらばらく歩いても奥に着かない。入り口は木の洞だったけど、途中でどこかの洞窟につながっていたのだろう。

 分岐がないので迷子にはならないが、同じ景色が続いているのでループしているような感覚になる。

「後どのぐらい時間がかかりそう?」
「うーーん。どうだろう。前に来たのが数年前だから忘れちゃった。奥に着いたらわかると思うよ?」

 何とも頼りにならない返事をされてしまった。
 ここが迷宮でなくて良かったと安堵するべきだろうか。

 案内している本人も覚えてないみたいだから大人に引率してほしかったなと思ったけど、エルフは他種族を嫌っているから俺の同行は認められなかったはず。サリーと二人じゃなければ来れなかっただろう。

 ルタスは?

 うん。あれは俺より仕事を優先するから一緒に探索なんてしてくれない。一人で頑張れと言われて終わりだろう。ある意味、サリーよりも頼りにならん。

 休憩を何度か挟んで、体感で二時間ぐらい歩いたらようやく終わりが見えてきた。

 洞窟の最奥は太陽の光が差している大きな空間だ。地面には様々な草が絨毯のように生えていて、背の低い木がいくつかある。中心には大きな骨があった。羽のような骨格があるので鳥かな? と思ったが、それにしては大きい。頭蓋骨は蜥蜴っぽい形をしているのでドラゴンに近しい種族か、そのものだろう。

「前に来たとき骨なんてなかったのに……。誰かいるのかな」

 俺の前にいるサリーが物騒なことをつぶやいた。

 すぐさま腕を取ると俺の背に隠す。

「え、えっ!? どうしたの?」
「他の種族が侵入している可能性がある。調べるから隠れてくれないか」
「それじゃルーベルトが危ないよ……」
「だとしてもサリーの安全を優先したい」

 初めてできた友達だ。

 自分の命よりも優先して守りたいと思うのは普通のことだろう。

「そこまで思ってくれたんだ……」

 目を大きく開いてうるうるさせながら、何かつぶやいていた。小声だったので俺には聞こえなかったけど、俺の考えは正しく伝わったことだろう。

 サリーを置いて一人で洞窟の最奥広場に入る。

 周囲を見るが人影はない。だからといって安全だとは限らず、木や骨の陰に隠れている可能性は残っている。

 いつでも魔法が発動できるように体内の魔力を練りながら歩く。

 木の裏には誰もいない。骨の方も大丈夫そうだ。近くに錆びた矢が数十本落ちていたので、遠距離から攻撃され、ドラゴンぽい生き物は落下して死んだとわかった。

 顔を上げて空を見ると太陽が見えた。丸く切り抜かれた空は大きな壺の中に入ったようにも感じる。

 眩しいので手をかざしながら調べるけど人影はない。

 きっと大分前に魔物を倒して、ここまで降りられずに諦めた誰かがいたのだろう。今のところ近くにはいないと判断して良さそうだ。

「安全そうだよ」

 声をかけるとサリーが小走りで近づいて、止まることなく抱きついた。

 予想外だったので押し倒されてしまう。

「どうしたの? 寂しかった?」
「違う。心配だった」
「……そっか。ありがとう」

 友達が優しい心を持っていて嬉しい。

 背中を優しくさすりながら言った。

「十三年生きた中で一番怖かったんだから。次は一緒だよ」
「え、十三年? 五年じゃなくて?」
「気にするのそこ!?」

 だってずっと五歳だと思っていたんだぞ。実年齢を聞いて驚かない方がおかしい。

 体を離してサリーの顔をよく見る。

 うん。どう見ても人間換算で五歳ぐらいだ。俺と同年代に見える。

「まあ、次は危険だと思ったら帰ることにしよう」
「約束だよ-」
「ああ。もちろんだ」

 ようやく納得してくれたので俺たちは立ち上がった。

「あの骨は何だと思う?」
「ドラゴン……にしては小さいから、その子供かな? それかワイバーンとか……」
「亜竜の可能性もあるのか」
「調べてみる?」
「サリーは薬草の採取をしてて。その間に俺が調べる」
「はーい。ルーベルト君が欲しがっているペルロ草も私が採取しておくね」
「助かるよ」

 骨よりも薬草に興味があるみたいで、サリーは早速採取を始めた。地面を掘って根っこごと背中のカゴに入れている。手が土で汚れても気にしていないみたいだ。

 魔法といい。趣味一直線だな。

「さてと」

 骨の方を改めてみる。全長は十メートル弱ぐらいだろうか。足下には白い鱗が落ちていてキラキラとしている。鞄からエーテル測定器を取り出して近づけると、含有量は最大値を示していた。ミスリル銀ですら最大でも80%ぐらいなので、物質として非常に珍しい。触ってみると軽かった。これで耐久性が高ければ色んな用途に使えそうだ。

 全部を持って帰るのは難しいので数枚鞄に入れる。骨の方も回収したいけど、大きすぎて手で持つのも無理だ。残念だけど諦めるしかない。

 他にも何か残ってないかな。骨の中に入って地面を調べていくと、心臓があっただろう辺りに着くと魔石が転がっていた。拳ぐらいの大きさだ。手に持って中身を覗いてみる。

 脳が朽ちて魂が魔石に移っていたらアンデッド化する恐れがあったんだけど、中身は空のようでどうやら心配する必要なさそうだ。ちゃんと成仏できたみたい。エーテル測定器を近づければ安定の最大値。これも錬金術の素材に使えそうだ。

 予想外の収穫に心が躍る。

「いいの見つかったみたいだね」

 採取を中断してサリーがこっちに来ていた。

「うん。錬金術に使える魔石が手に入ったんだ」
「ドラゴン系統の素材なら完成した物は高性能になりそうだね」
「そうだよな! 今から楽しみだ!」

 気分が急上昇して楽しい。心がふわふわしている。これが浮ついている、ってやつか。すごくいいな。

 そそくさと魔石をバッグに入れていると、じっと見られていることに気づく。

 視線はサリーだ。年上だと判明したからか、温かく見守られているように思えてしまう。

「私との魔法お勉強会も忘れないでね」
「もちろんだよ。一緒に新しい魔法も覚えていこう!」

 分からないことも多いけど、友達もでき、没頭する趣味も作れた。

 新しい人生は充実している。

 楽しくなりそうだと、今はそう思っていた。