次の日に現れた加地くんは髪の毛を暗くして、ピアスも外れていた。着崩していた制服もきちんとネクタイが締められていて、だけど、やっぱりカッコよさはだだ漏れしている。
 むしろ、より格好良く見えてしまう気がするのは、あたしだけだろうか?

 昨日の満月のように光り輝いて見えるオーラが眩しい。目を逸らしていつも通りに席についたあたしのところへ、加地くんがやってくる。

「汐谷さん、今日も行っても良い? プラネタリウム」

 そっと囁かれて、全身が熱くなる。
 何度も頷くあたしを見て、嬉しそうに微笑む加地くんは、自分の席に戻っていつものメンバーに囲まれている。
 みんなが困惑するなか、加地くんはスッキリしたような表情をしているから、あたしは安心した。
 きっと、福永さんのことは気持ちの整理が出来たんだろう。もう二度と、加地くんには悲しんでほしくないな。
 心の中で感じて、また二人でプラネタリウムを見れることを嬉しく思った。
 放課後がくるのが待ち遠しい。

 今日は少しだけ、真面目を崩して来た。
 いつもぴっちり後ろに低めに結んでいる髪の毛の黒いゴムは、薄いイエローのゴムに変えた。
 リップも派手ではないほんのりと色づくリップクリームを塗ってみた。
 きっと誰も気がつかない。
 だけど、あたしにとってはとてつもない大冒険。誰にも気がつかれないままドキドキして過ごすこの時間が新鮮で、放課後が来ると一気に緊張感から解き放たれて、なんだか疲れてしまった。
 加地くんが偽りの自分を演じて疲れた気持ちが、わかった気がする。
 資料室で寝ていた彼を思い出して口元が緩んでしまった。

「今日機嫌いいよね、汐谷さん」

 後ろから聞こえて来た声に驚いて振り返ると、加地くんが笑っていた。

「自分を変えるって、疲れるけど少し楽しいね」

 思い切って、あたしは加地くんに言った。

「うん。今日の汐谷さん、かわいいと思ったよ」
「……え?!」
「あ、あー、まただ。ごめん、俺思ったことすぐ言っちゃうから。気にしないで」

 慌てて資料室の奥に進んでいこうとする加地くんの制服の裾を、思わず、引き留めるように掴んでしまった。

「……ありがとう」

 変じゃないかなって、ずっと気になってた。誰も何も言ってくれないし、いいのか悪いのかも分からなかったから、加地くんの言葉が、あたしには嬉しい。

「うん、かわいいよ、今日の汐谷さん。明日も明後日も、変わっていくとこ、見てみたい」

 振り返って、微笑む加地くんは少し照れた顔をしている気がして、あたしは一気に熱の上がる頬を抑えた。

「が、頑張りますっ」
「うん、俺も頑張る」

 今日も人工的な星屑を眺める。加地くんとの距離が近く感じて、ドキドキする。
 来月の満月も、その次の満月も、あの公園でまた一緒に見れたらいいな。
 そんなことを考えてしまっていることは、次の満月までは内緒にしておこう。

ーfinー