声が,震える。
多くも少なくもない友達のうち,それなりに大事な部類の友達だった。
あの頃の記憶まで捨てたくない。
大人だもの,濁すかごまかすか嘘つくか。
どれでもいいの,私か大西くんか,どちらでもいいから。
嘘でもいいから思いやった言葉をあなたは
「言ったけど? だって別れるのに嘘ついても仕方ないだろ」
……なぁんだ。
私達が共有した時間は,それほど意味のないもので。
私には最初から
「さよなら,勇二」
そんな物分かりのいい言葉しか,用意されてなかったのね。
「あ おい美里!!!!」
どうしてそんなひどい仕打ちが出来たの。
私はもう,あなたのせいで大西くんにも,その奥さんの侑李にも顔向け出来ないのに。
あなた達2人の仲がまだ続いてるのも,よく飲みに行ってるのも知ってた。
なのに,向こうが私を知らないのはどうして?
あなたが話さなかったからでしょう。
慌てたような声に,家を飛び出しながら振り返ると,そこにいたのはパンツ一丁で私を追いかけられない,情けない彼。
振り切るように前を向く。
そして,今日に限ってハイヒールのまま,私は階段を駆け下りて彼の安いマンションを後にした。