雪の降らない冬の夜空には、夏に上がる花火のような綺麗な月が枯れずにそこにあった。
 駅までの道はずっと長くぎゅっと短いと思った。
 まだ君と一緒にいたい、まだ君を行かせたくない。その口実を僕はずっと探していた。
 
 「じゃあ、ここで。またね」
 
 改札前で振り返り小さく手をふり、そう言った白雪を僕は追いかけることが出来なかった。
 今伝えなきゃ一生後悔する。手を丸めて拳に手汗がにじみ、ぶるぶると震える出す。
 「早くしろ」と自分を鼓舞する。

 「あ!あのさ!」
 
 白雪は脚を止めて不思議そうな顔で僕を見つめる。

 「去年白雪の見れなかった花火大会、さ。一緒に見ようってあの約束覚えてる?まあ覚えてなくてもいいんだけど。でも、お互い夢を叶えれたら、一緒に見よう」
 「覚えてて、くれたんだ」
 「え」

 その一瞬、何が起きたのか分からなかった。唇が、両頬が、心が、冬なのに温かくなった。
 白雪の顔が近くにあった。
 
 「花火、一緒に見ようね」
 「うん……うん!絶対な、絶対だからな!」

 そして白雪はこの街からいなくなった。

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