打ち上げ開始までの三十分はあっという間に過ぎていった。街灯も消され、文字道理に世界が真っ暗闇となった。
 あと少しで始まる。
 音質の悪いアナウンスで打ち上げ開始までのカウントダウンが始まった。
 
 『10、9……』
 
 彼女も、白雪もどこかで見てるんだろうか。
 もしかしたら隣に誰かがいて手でも繋いでいたりして。

 『7、6……』

 まさかね。僕との”あの約束”をわすれていたくらい演技に夢中だったんだ。
 そんな彼女がこの田舎町に今日のためだけに、わざわざ帰郷したりはしないだろう。

 『4,3……』

 会いたかったな。連絡先、消さなければよかったな。
 夢、叶えるられたのかな。
 風邪とか引いちゃいないかな。

 『2、1……』

 ……やっぱり。僕は彼女の事が、一ノ瀬白雪の事が好きなんだ。

 『0!!』

 笛に似た風を切るような音を鳴らしながら一発だけ打ち上げられ一気に開花した。
 金色に光り、少し遅れて届いたドンッと轟く音。
 弾けた花火はパラパラと散る花弁に変わり、次第に冬に降る雪のように白くなり消えていった。
 それに後から続き、二発、四発と真っ暗だった夏の夜空の隙間を埋めていった。

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