次々と、絶えることなく上がり続けた、色とりどりに光っていた花火が消えると、空がいつもより暗く広いと感じた。
 異常だった暑さも随分と弱りきって、夏の終わりを思わせるような風が吹き抜ける。

 『とても綺麗でしたねー。さていよいよこの花火大会も終盤へと差し掛かって参りました。続いてはひばなラジオ恒例の”メッセージ花火”へ行きたいと思います。今年も沢山のお便りーー』

 それからは粒弥さんがお便りを読み上げ、内容にあった形の花火が上がった。
 プロポーズにはハートの形が、甲子園の応援メッセージにはスマイルマーク、他にも蝶や土星など様々な形が幾つも打ち上った。
 まだ続くのかと憂鬱な気持ちになりながらも僕はそれらのお便りを最後まで聞き打ち上る花火を目に焼き付けた。
 来年も再来年もそのまた次も、永遠に僕は一人でこの花火を見ることになるんだろうな。
 未だに夢の欠片を掴むどころか、掴める手すら出来上がっていないのだから。
 ”あの約束”はきっと、ずっと、訪れることは何のだろう。
 
 『優しい息子さんですね!では次が最後のお便りです。……お。これまたプロポーズですかね。ペンネーム一ノ瀬白雪さんからです』

 ……え?しらゆき……?

 『こんばんは。初めてお便りを送ります。私は今女優を目指してます。でもまだまだ未熟者で、本当だったら今頃、好きな人と見上げるはずでした。でもできません。その人と約束したからです。お互いに夢を叶えたら一緒に見ようって。それでも頑張ってヒロインになることは出来なかったけど悪役令嬢にを演じられるようには成長しました。彼が花火を見ているのか、まだ街に居るのかわかりませんが伝えさせてください。海心。来年は絶対に一緒に見ようね。大好きだよ。とのことです。とても甘酸っぱいーー」

 打ち上った花火は夢のように儚く、一瞬の花を開いて夏の夜空へと消えていった。
 僕はその夏の夜に上がった、たった一発を、心に焼け跡が残るくらい、大切に焼き付けた。