百年の恋も余裕で冷める、そんな醜態を晒してくれるリンダ・ガル先輩。
 僕はともかくシアンさんやサクラさんまでも侮辱するその姿はぶっちゃけ美女なのに醜い。ああ、僕の美しい二度目の初恋の思い出が穢れちゃったよー……
 
「…………」
「さあ吐け、野良犬! 今すべてを白状し罪を償うならば、命までは取らないでおいてやろう!」
「会長! そんな人達から離れて私達とまた一緒に過ごしましょう!」
「オーランド様の元で、みんなで楽しく……仲良しだったあの頃に帰るんです、シアン様!!」
「アホでござる」
 
 すっかり正義は我にありってな感じに叫んでくるリンダ先輩と、その後ろからワチャワチャ吠えてるイスマさんとシフォンちゃん。
 情報の精査もせずによくここまで人伝の話にのめりこめるねー……ギルドで酒呑んでる冒険者に適当に聞けば即バレる嘘なのに、この人達はさー。
 
 あまりのお粗末ぶりにサクラさんも完全に呆れ返って一言吐き捨てるだけだ。もう反論するのも馬鹿らしいんだろうね、同感だよー。
 ただ、シアンさんとレリエさんは未だ全然マジギレしてるみたいだ。3人を睨みつけて、言葉を叩きつける。
 
「ありもしない罪を着せて断罪するなど言語道断! まして彼はすでに私達のパーティー・新世界旅団の一員です! その彼を愚弄するならば団長としてリンダ・ガル、あなた方を排除することも厭いません!!」
「あんた達ちょっとどうかしてるんじゃないの!? さっきから話聞いてただけでも異常よ異常、言ってること無茶苦茶よ!!」
「誰だ貴様、部外者は黙っていろ!!」
「私だって新世界旅団のメンバーよ! 新入りだけど!」
 
 おお、レリエさんが意外と猛っているよー。戦う力もないのにものすごくリンダ先輩に噛みついてる。
 普段は明るく朗らかって感じだけど、敵を前にすると強い気性が出るんだねー。

 いいねこっちも、冒険者向きだよー。いつでも牙を剥き出しにしてるような狂犬じゃ駄目だけど、優しいだけ明るいだけでもなかなか務まりにくいからねー。
 平時は普通だけど、気に入らないことがあれば噛み付きに行く。そのくらいの塩梅がちょうどいいんだよー。僕や他の冒険者達も概ね、そんなとこあるしねー。
 
「チッ……! シアン・フォン・エーデルライト!! 貴様は前から気に食わなかったのだ、貴族のくせに冒険者になろうという愚かな一族の女め!」
「奇遇ですね、私もあなたのことが気に入りませんでしたよ最初から。人を出自で判断し見下し、あまつさえ私の大切な恩人でもある団員をかくも悪し様に侮蔑する。この世のどんなものより薄汚い女があなたです」
「抜かしたな! ならば!!」
「今ここで白黒つけようと! 私は構いません!!」
「えぇ……?」
 
 言い合いの勢いのままに双方、刀とブロードソードを抜き放っちゃったよ。これヤバいね、決闘騒ぎだよー!
 普通この手のって木剣なり素手なりで、殺し合いにならない程度にやるのが常なんだけどー……駄目だね、すっかり興奮しちゃってるよー。
 
 地味に途中から僕云々じゃなくてお互いの好き嫌いの話になったりして、すっかり女の戦いって感じになっちゃった。怖いよー。
 さすがに殺し合いは冗談じゃないし止めに入ろうかとサクラさんを見ると、彼女は一切動く気もなく面白がって囃し立ててる始末。
 
「やっちまえでござるよシアンー、ヒノモト気取りのエセ女の刀なんざ叩き折っちまえでござるーござござー」
「頑張ってシアン! そんな嫌な子、やっつけちゃえー!」
「………………………………」
 
 これだからヒノモト人は怖いんだよ。
 日常的に殺し合いする生活らしいから、決闘騒ぎだって酒のおつまみみたいにしか思ってないしー。
 レリエさんもレリエさんですっかり興奮しきっちゃってるしー。ああ駄目だ、これ止めるの僕しかいないよー。
 
「はあ…………」
「ちょっと待つでござるよ杭打ち殿ー。せめて数合は打ち合わせてやろうではござらぬかー」
「えっ?」
 
 ため息を吐いて仕方なし、止めに入るかーと一歩踏み出した途端サクラさんに呼び止められた。そしてちょっぴりでいいからやり合わせてあげてくれなどと、とてもシアンさんのコーチとも言えない物騒なことを言い出す。
 いくらなんでもそりゃー無茶だよー。朝からこっち、昼ご飯を除いてずーっと動き通しなんだよー? さすがに体力的にはもう限界のはずだろうし、気力だって厳しいはずだよ。
 
 こういう時に戦わせてあげたいのは分からなくもないけど、そもそもフェアじゃない状態だからね? それを踏まえるとさっさと終わらせるべきなんだけど……それでもサクラさんは首を縦に振らない。
 どゆことー?
 
「拙者の見立てではシアンはもうちょいで一皮剥けるでござる。何かしらの窮地を乗り越えれば、グーンと伸びるでござろうね」
「…………そんなイチかバチかはさすがに許さないよ、僕も」
「無論ヤバいなら止めに入るでござる。杭打ち殿でなく拙者でも、あっちのアホの首なんぞ一秒で刎ねれるでござるし。しかしてだからちょっとだけ、ほんのちょっとだけ! シアンのためにも頼むでござるよー」
「…………やっぱりヒノモト人じゃないか、もー」
 
 案の定極端なことを言い出したサクラさん。まんまワカバ姉なんだよね、やり口が。
 こうなるとヒノモト人は梃子でも動かないし、困ったもんだよー。仕方なし僕は、一旦身を引いて様子をうかがうことにした。