気づいた時には、双子のヤミくんとヒカリちゃんはこの迷宮地下86階のとある部屋の中、棺にも似た鉄の箱の中に入っていたらしい。
僕もその部屋には足を踏み入れたことがあるから分かる。床も壁も硬い赤い土、不思議とどこからか光が放たれて決して暗くもないフロアの中で唯一、人工的な鉄の壁で他と区別されていた地点だ。
「強引にぶち抜いて進入した記憶はある……3年前に。頑丈そうな箱が並んでた」
「無茶苦茶だね、杭打ちさん……記憶はないけど知識はあるから言えるんだけど、あの壁ははるか昔の世界にあっても極めて硬くて頑丈な材質でできていたんだ。それをまさか、ぶち抜くって」
「ああ、道理で……」
あんまり硬かったから、先代の杭打機が壊れちゃって大変だったよー。
思い出すのは"杭打ちくん2号"ご臨終の瞬間だ。あんまり硬くて頑丈な壁だったから、もうゴリ押しちゃえと無理くり、何度も何十発も杭を叩き込んでやったんだ。
当時一緒に迷宮に潜ってた人達に心底馬鹿を見る目で見られてた気がするなー。今頃何してるかなみんな、何人かは今でもこの町にいるんだけどねー。
それはさておき。まあそんなわけで僕も一応存在は知っていた部屋の、安置されていた箱の中から双子は起き上がり、這い出てきたのだとか。
すごい長いこと眠っていたらしいけど、別に二人はモンスターとかではない普通の人間だそうで。なんでも超大昔にあった国の技術は、そういう冬眠みたいなことをさせてしまえるくらいすごいものだったらしい。
マジかー、ちょっと滾ってきたー。
超古代文明とかめっちゃ好物だよー。冒険者になってお金を稼ぐようになって初めて買った雑誌がその手の雑誌でその名も"ミステリアスワールド"なんだよー。
今でも定期購読してるんだよー!!
「嘘だろ、俺の大好きなオカルト雑誌"ミステリアスワールド"のネタじゃんか……実在したのか、メルトルーデシア神聖キングダム!!」
「……………………!!」
「そーいうの良いからちょっと黙ってて。与太話とたまたま一致しそうな部分があるからってはしゃがないの」
「えー。いいじゃんちょっとくらい」
「……………………」
えー。いいじゃんちょっとくらいー。
っていうか三人組の男の人、同好の士だったのか! 疑ってごめんなさい、オカルト好きに悪い冒険者はいないんだ。
ぜひとも失われた超古代文明とか、どこかにあると言われている異世界への扉とか、実際にそこからやってきたと噂されている勇者とかいう存在について大いに語りたいところだけど、今はさすがにそんなことしてる場合じゃないよね。
残念だー。あー残念、ホント無念だ。あーあー。
「…………」
「ぴぇっ……杭打ちしゃん、なんか震えてるぅ……?」
傍目にも落ち込んでるのが見て取れてしまったみたいで、さっきからピーピー泣いてる女の子が僕を見てまた、涙目で震えだしてしまった。
シスター服が清楚な感じ、だろうたぶん。今は僕が仕留めたモンスターの血肉を引っ被ってまあ、酷いことになってるから想像するしかないけど、しっかり着こなしている。
おそらくは神官系の冒険者だろう。神への祈りを力に変えて、悪しきものを浄化したり人々の傷を癒やしたりする専門職だね。
小柄だけど出るところは出てる、控え味に見てもかなりの美少女さんだ。こんな状況じゃなければ即座に惚れてしまいそう。かわいいー。
「えーっと、杭打ちさんどうかした?」
「……大丈夫。続けて」
12回目の初恋の予感を、ここ地下86階なんですけどーという現実の過酷さでどうにか抑えていると双子がキョトンとした顔で尋ねてきた。危ない危ない。
リリーさんの言うとおり、めちゃくちゃ惚れっぽいなと自分でも思う。でも仕方ないじゃんこの世は素敵な女の人に溢れかえっているんだもの! と内心反論しながらも僕は、そんな下心はおくびにも出さないで続きを促した。
ヤミくんが、少しばかり戸惑いながらも言う。
「あ、うん。えと……そう、とにかくそういう棺の中で寝てた僕らはつい昨日、目を覚ましたわけなんだけどさ。どうしてこんなところで眠ることになったのか、眠る前に何があったのかとかすべて忘れてしまっていたんだ」
「記憶喪失……おそらくは永く眠っていたことの副作用とは思うんです。残っているかつての知識が、そんな可能性に思い至ってますから」
そもそもなんでこんな、迷宮の奥深くで眠りにつくことになったのか。はるかな昔の超古代文明に一体、何が起きたのか。
その辺の詳しいことを、目が覚めた時には忘れてしまっていたらしい。双子は憂鬱そうに俯き、唇をかみしめてもどかしそうにしている。
知識はある分、まだマシなんだろうけど……自分の来歴が分からないってのは怖いよね。僕もスラム生まれのスラム育ちだから、自分の親とか先祖とかのルーツなんて一つも知らないからちょっと気持ちが分かるかもしれない。
三人組も、気遣わしげな目でヤミくんとヒカリちゃんを見ている。この状況でそういう顔ができるのは、ブラフじゃなければ相当なお人好しに違いないね。冒険者として、なんだかんだと義理人情は大切な要素だから、この人達は今後伸びるかも。
「状況が何も分からないまま、それでも僕達は外に出てみることにした。情報を少しでも集めたかったし、誰か人に出会って保護と救助を求める必要もあったから」
「まさか、えっと迷宮? の地下86階なんて奥深い場所だとは思いもしませんでしたけどね……モンスターがあちこちにいて、必死に身を隠しながらの探索をしていました」
「なるほど! それで彷徨いてたところを俺達がたまたま、通りがかったわけだな」
三人組のイケメン君が、納得したように頷いた。
なるほど……そもそもの状況からして異常なのを除けば、この人達は割とファインプレーをしていたわけだ。モンスターに襲われて、まとめて死にそうになっていたのがアレだけれども。
となると、今度はこの三人の話を聞いたほうがいいね。
僕はまた、彼らに向き直った。
僕もその部屋には足を踏み入れたことがあるから分かる。床も壁も硬い赤い土、不思議とどこからか光が放たれて決して暗くもないフロアの中で唯一、人工的な鉄の壁で他と区別されていた地点だ。
「強引にぶち抜いて進入した記憶はある……3年前に。頑丈そうな箱が並んでた」
「無茶苦茶だね、杭打ちさん……記憶はないけど知識はあるから言えるんだけど、あの壁ははるか昔の世界にあっても極めて硬くて頑丈な材質でできていたんだ。それをまさか、ぶち抜くって」
「ああ、道理で……」
あんまり硬かったから、先代の杭打機が壊れちゃって大変だったよー。
思い出すのは"杭打ちくん2号"ご臨終の瞬間だ。あんまり硬くて頑丈な壁だったから、もうゴリ押しちゃえと無理くり、何度も何十発も杭を叩き込んでやったんだ。
当時一緒に迷宮に潜ってた人達に心底馬鹿を見る目で見られてた気がするなー。今頃何してるかなみんな、何人かは今でもこの町にいるんだけどねー。
それはさておき。まあそんなわけで僕も一応存在は知っていた部屋の、安置されていた箱の中から双子は起き上がり、這い出てきたのだとか。
すごい長いこと眠っていたらしいけど、別に二人はモンスターとかではない普通の人間だそうで。なんでも超大昔にあった国の技術は、そういう冬眠みたいなことをさせてしまえるくらいすごいものだったらしい。
マジかー、ちょっと滾ってきたー。
超古代文明とかめっちゃ好物だよー。冒険者になってお金を稼ぐようになって初めて買った雑誌がその手の雑誌でその名も"ミステリアスワールド"なんだよー。
今でも定期購読してるんだよー!!
「嘘だろ、俺の大好きなオカルト雑誌"ミステリアスワールド"のネタじゃんか……実在したのか、メルトルーデシア神聖キングダム!!」
「……………………!!」
「そーいうの良いからちょっと黙ってて。与太話とたまたま一致しそうな部分があるからってはしゃがないの」
「えー。いいじゃんちょっとくらい」
「……………………」
えー。いいじゃんちょっとくらいー。
っていうか三人組の男の人、同好の士だったのか! 疑ってごめんなさい、オカルト好きに悪い冒険者はいないんだ。
ぜひとも失われた超古代文明とか、どこかにあると言われている異世界への扉とか、実際にそこからやってきたと噂されている勇者とかいう存在について大いに語りたいところだけど、今はさすがにそんなことしてる場合じゃないよね。
残念だー。あー残念、ホント無念だ。あーあー。
「…………」
「ぴぇっ……杭打ちしゃん、なんか震えてるぅ……?」
傍目にも落ち込んでるのが見て取れてしまったみたいで、さっきからピーピー泣いてる女の子が僕を見てまた、涙目で震えだしてしまった。
シスター服が清楚な感じ、だろうたぶん。今は僕が仕留めたモンスターの血肉を引っ被ってまあ、酷いことになってるから想像するしかないけど、しっかり着こなしている。
おそらくは神官系の冒険者だろう。神への祈りを力に変えて、悪しきものを浄化したり人々の傷を癒やしたりする専門職だね。
小柄だけど出るところは出てる、控え味に見てもかなりの美少女さんだ。こんな状況じゃなければ即座に惚れてしまいそう。かわいいー。
「えーっと、杭打ちさんどうかした?」
「……大丈夫。続けて」
12回目の初恋の予感を、ここ地下86階なんですけどーという現実の過酷さでどうにか抑えていると双子がキョトンとした顔で尋ねてきた。危ない危ない。
リリーさんの言うとおり、めちゃくちゃ惚れっぽいなと自分でも思う。でも仕方ないじゃんこの世は素敵な女の人に溢れかえっているんだもの! と内心反論しながらも僕は、そんな下心はおくびにも出さないで続きを促した。
ヤミくんが、少しばかり戸惑いながらも言う。
「あ、うん。えと……そう、とにかくそういう棺の中で寝てた僕らはつい昨日、目を覚ましたわけなんだけどさ。どうしてこんなところで眠ることになったのか、眠る前に何があったのかとかすべて忘れてしまっていたんだ」
「記憶喪失……おそらくは永く眠っていたことの副作用とは思うんです。残っているかつての知識が、そんな可能性に思い至ってますから」
そもそもなんでこんな、迷宮の奥深くで眠りにつくことになったのか。はるかな昔の超古代文明に一体、何が起きたのか。
その辺の詳しいことを、目が覚めた時には忘れてしまっていたらしい。双子は憂鬱そうに俯き、唇をかみしめてもどかしそうにしている。
知識はある分、まだマシなんだろうけど……自分の来歴が分からないってのは怖いよね。僕もスラム生まれのスラム育ちだから、自分の親とか先祖とかのルーツなんて一つも知らないからちょっと気持ちが分かるかもしれない。
三人組も、気遣わしげな目でヤミくんとヒカリちゃんを見ている。この状況でそういう顔ができるのは、ブラフじゃなければ相当なお人好しに違いないね。冒険者として、なんだかんだと義理人情は大切な要素だから、この人達は今後伸びるかも。
「状況が何も分からないまま、それでも僕達は外に出てみることにした。情報を少しでも集めたかったし、誰か人に出会って保護と救助を求める必要もあったから」
「まさか、えっと迷宮? の地下86階なんて奥深い場所だとは思いもしませんでしたけどね……モンスターがあちこちにいて、必死に身を隠しながらの探索をしていました」
「なるほど! それで彷徨いてたところを俺達がたまたま、通りがかったわけだな」
三人組のイケメン君が、納得したように頷いた。
なるほど……そもそもの状況からして異常なのを除けば、この人達は割とファインプレーをしていたわけだ。モンスターに襲われて、まとめて死にそうになっていたのがアレだけれども。
となると、今度はこの三人の話を聞いたほうがいいね。
僕はまた、彼らに向き直った。