「新しい……調査戦隊?」
「ええ」
唐突な提案。3年前に解散したきりの大規模パーティー・大迷宮深層調査戦隊の新しいバージョンを、僕を中心に作る?
ええと、ええ? なんだって?
困惑が勝り、反応に困る僕。
見ればケルヴィンくんとセルシスくんも同様だけど、サクラさんだけは前から知ってたのかな、特に反応を示さず僕の様子を窺っていた。
な、なんで、そんなこと言い出したんだろー……
まずは理由を聞いてみないと、こちらとしても反応のしようがない。どうにか平静を取り戻して質問すれば、シアンさんはまたもやニッコリ笑って僕に、そんな発想に至った経緯を話し始めてくれた。
「今や最も新しく、そして偉大な神話とも称される大迷宮深層調査戦隊。"絆の英雄"レイア・アールバドを筆頭に"戦慄の冒険令嬢"リューゼリア・ラウドプラウズなど……今世界各地で名を挙げ覇を唱えている冒険者達はその多くが、かつて調査戦隊に参加していた者達です」
「レジェンダリーセブンの連中は特に大暴れでござるなー。拙者の知り合いにも一人いるでござるが、今やヒノモトを牛耳る勢いでござるよ」
「……もしかして、ワカバ姉?」
「御名答でござるー。さすがは杭打ち殿にござるなー」
サクラさんの言葉にふと反応すると、見事正解を言い当ててしまった。
ワカバ……ワカバ・ヒイラギ。調査戦隊でも屈指の実力者の一人で、サクラさんも言ってるけどレジェンダリーセブンの一員だ。昔はいろいろ話をしたりした、僕にとっても仲の良かったメンバーだ。
あの人そう言えばヒノモト人だったなー。カタナって武器とかもそうだけど和服と呼ばれるヒノモト衣装とか、今目の前にいるサクラさんに通じる格好をしていたよー。
同じヒノモト人の同じSランク冒険者同士、仲良しさんなのは頷ける話だね、サクラさんとワカバさん。
「そうした調査戦隊は3年前、ある王国の卑劣な策略によって瓦解しました……メンバー最年少、それでいてパーティーの最高戦力とさえ言われていたとある冒険者を一方的かつ差別的な理由で蔑み、排し、追放したのです。その結果を受けて調査戦隊は崩壊。解散の憂き目に遭いました」
「え。あ、あのー……い、一方的というのは少し語弊が」
「金をくれてやるから、と言われたのでござろ?」
3年前の調査戦隊解散まわりの話に触れた途端、シアンさんの放つオーラが冷たく怖いものになったよー。ある王国ってエウリデのことだし、卑劣な策略って侯爵家の令嬢が言っちゃっていいことなのかなー……
そしてサクラさんも地味に怖い。ニッコリ笑顔で僕に尋ねてくるけど、目がうっすら開いてて鋭い。笑ってない、笑ってないよそれ! 笑顔って言わないよその表情ー!?
ビビっちゃう僕。ケルヴィンくんとセルシスくんなんて早々に席を少し空けて、ボードゲームなんて始めちゃってる。
くう、危機管理能力の高さ! 君たちってばいつもそうだね賢い!
僕もそっちに行きたいけれど、当事者だから叶わないー。サクラさんがさらに圧を高めに話してくるよー。
「当時、首が回らないでいた孤児院の、借金を全額返済できる額を提示されて貴殿は追放を呑んだ。そもそも調査戦隊にいた記録さえ抹消され、2年間の経歴をすべてなかったことにさせられたのでござろう。とんでもないふざけた脅迫でござるよ」
「そ、それはそうですけどそのー……最終的には僕自身の判断と意志によるものですしー。国は嫌いですけど、そこは一方的ってわけでもないかなーってー」
「スラム出身の者が調査戦隊に在籍している、という事実をなかったことにするためだけにわざわざそんな提案をしたのでござるよ、連中は。それにどうせ、大臣にでも言われたのでござろう? お主が在籍していると調査戦隊に迷惑がかかるだのなんだの、勝手なことを」
「それ、は」
……言われたねー。
"未来ある冒険者集団に、お前のような野良犬がいたなどとても公表できない"とか"金ならいくらでもやるから消え失せろ、スラムの虫けらが"とか。"呑まなければ孤児院がどうなっても構わないものと見做すぞ"とまで言われたなー。
思い返すと最後のは完全に脅迫だね。
国を敵に回して孤児院に害が及ぶのと、借金完済と引き換えに僕が調査戦隊を抜けるのと……天秤にかけるまでもない。
あの2年間で僕は、十分に人間扱いしてもらえた。人としてのいろんなことを教わったし、みんなと生きていくことの素晴らしさを知った。
だからこそ、僕は最後には提案を呑んで金を受け取り、大迷宮深層調査戦隊という栄光と希望に満ちた表舞台から去ったんだ。人として大事なものを守るために、孤児院のみんなの生活を、護るために。
「……まあ、まさか僕が脱退したことで調査戦隊そのものが解散するだなんてまるで予想もしてなかったんですけどね! なんかそのー、国のそういうアレがバレたんでしたっけ?」
「ワカバ姫の言からするとそのようでござるな。エウリデへの報復をするかしないか、ソウマ殿を連れ戻すか否かを巡って調査戦隊内で対立が起き、即日空中分解したとか」
「エウリデ連合王国の無体による調査戦隊の解散劇は瞬く間に世界各国に知れ渡り、エウリデは激しい非難に晒されました。すべて因果応報ですね……」
僕の言葉に、サクラさんもシアンさんも肩をすくめてどこか、エウリデ連合王国への含みを持たせる感じで話す。
相当怒ってるんだね、僕の離脱を促して結果的に調査戦隊を崩壊に導いたこと……だからって新しい調査戦隊を作るってのは、ちょっとよくわからないけどー。
「ええ」
唐突な提案。3年前に解散したきりの大規模パーティー・大迷宮深層調査戦隊の新しいバージョンを、僕を中心に作る?
ええと、ええ? なんだって?
困惑が勝り、反応に困る僕。
見ればケルヴィンくんとセルシスくんも同様だけど、サクラさんだけは前から知ってたのかな、特に反応を示さず僕の様子を窺っていた。
な、なんで、そんなこと言い出したんだろー……
まずは理由を聞いてみないと、こちらとしても反応のしようがない。どうにか平静を取り戻して質問すれば、シアンさんはまたもやニッコリ笑って僕に、そんな発想に至った経緯を話し始めてくれた。
「今や最も新しく、そして偉大な神話とも称される大迷宮深層調査戦隊。"絆の英雄"レイア・アールバドを筆頭に"戦慄の冒険令嬢"リューゼリア・ラウドプラウズなど……今世界各地で名を挙げ覇を唱えている冒険者達はその多くが、かつて調査戦隊に参加していた者達です」
「レジェンダリーセブンの連中は特に大暴れでござるなー。拙者の知り合いにも一人いるでござるが、今やヒノモトを牛耳る勢いでござるよ」
「……もしかして、ワカバ姉?」
「御名答でござるー。さすがは杭打ち殿にござるなー」
サクラさんの言葉にふと反応すると、見事正解を言い当ててしまった。
ワカバ……ワカバ・ヒイラギ。調査戦隊でも屈指の実力者の一人で、サクラさんも言ってるけどレジェンダリーセブンの一員だ。昔はいろいろ話をしたりした、僕にとっても仲の良かったメンバーだ。
あの人そう言えばヒノモト人だったなー。カタナって武器とかもそうだけど和服と呼ばれるヒノモト衣装とか、今目の前にいるサクラさんに通じる格好をしていたよー。
同じヒノモト人の同じSランク冒険者同士、仲良しさんなのは頷ける話だね、サクラさんとワカバさん。
「そうした調査戦隊は3年前、ある王国の卑劣な策略によって瓦解しました……メンバー最年少、それでいてパーティーの最高戦力とさえ言われていたとある冒険者を一方的かつ差別的な理由で蔑み、排し、追放したのです。その結果を受けて調査戦隊は崩壊。解散の憂き目に遭いました」
「え。あ、あのー……い、一方的というのは少し語弊が」
「金をくれてやるから、と言われたのでござろ?」
3年前の調査戦隊解散まわりの話に触れた途端、シアンさんの放つオーラが冷たく怖いものになったよー。ある王国ってエウリデのことだし、卑劣な策略って侯爵家の令嬢が言っちゃっていいことなのかなー……
そしてサクラさんも地味に怖い。ニッコリ笑顔で僕に尋ねてくるけど、目がうっすら開いてて鋭い。笑ってない、笑ってないよそれ! 笑顔って言わないよその表情ー!?
ビビっちゃう僕。ケルヴィンくんとセルシスくんなんて早々に席を少し空けて、ボードゲームなんて始めちゃってる。
くう、危機管理能力の高さ! 君たちってばいつもそうだね賢い!
僕もそっちに行きたいけれど、当事者だから叶わないー。サクラさんがさらに圧を高めに話してくるよー。
「当時、首が回らないでいた孤児院の、借金を全額返済できる額を提示されて貴殿は追放を呑んだ。そもそも調査戦隊にいた記録さえ抹消され、2年間の経歴をすべてなかったことにさせられたのでござろう。とんでもないふざけた脅迫でござるよ」
「そ、それはそうですけどそのー……最終的には僕自身の判断と意志によるものですしー。国は嫌いですけど、そこは一方的ってわけでもないかなーってー」
「スラム出身の者が調査戦隊に在籍している、という事実をなかったことにするためだけにわざわざそんな提案をしたのでござるよ、連中は。それにどうせ、大臣にでも言われたのでござろう? お主が在籍していると調査戦隊に迷惑がかかるだのなんだの、勝手なことを」
「それ、は」
……言われたねー。
"未来ある冒険者集団に、お前のような野良犬がいたなどとても公表できない"とか"金ならいくらでもやるから消え失せろ、スラムの虫けらが"とか。"呑まなければ孤児院がどうなっても構わないものと見做すぞ"とまで言われたなー。
思い返すと最後のは完全に脅迫だね。
国を敵に回して孤児院に害が及ぶのと、借金完済と引き換えに僕が調査戦隊を抜けるのと……天秤にかけるまでもない。
あの2年間で僕は、十分に人間扱いしてもらえた。人としてのいろんなことを教わったし、みんなと生きていくことの素晴らしさを知った。
だからこそ、僕は最後には提案を呑んで金を受け取り、大迷宮深層調査戦隊という栄光と希望に満ちた表舞台から去ったんだ。人として大事なものを守るために、孤児院のみんなの生活を、護るために。
「……まあ、まさか僕が脱退したことで調査戦隊そのものが解散するだなんてまるで予想もしてなかったんですけどね! なんかそのー、国のそういうアレがバレたんでしたっけ?」
「ワカバ姫の言からするとそのようでござるな。エウリデへの報復をするかしないか、ソウマ殿を連れ戻すか否かを巡って調査戦隊内で対立が起き、即日空中分解したとか」
「エウリデ連合王国の無体による調査戦隊の解散劇は瞬く間に世界各国に知れ渡り、エウリデは激しい非難に晒されました。すべて因果応報ですね……」
僕の言葉に、サクラさんもシアンさんも肩をすくめてどこか、エウリデ連合王国への含みを持たせる感じで話す。
相当怒ってるんだね、僕の離脱を促して結果的に調査戦隊を崩壊に導いたこと……だからって新しい調査戦隊を作るってのは、ちょっとよくわからないけどー。