「ソウくん、今のは……!」
「何が本当の過ちだったのか。それは分かった」

 静かにつぶやく。周囲のどよめきとは裏腹に僕の心はひどく、自分でも驚くほどに静かにかつ、澄み渡っている。
 まるで青空を、雲一つないそれを見上げた時のような気持ちだ……いや嘘。さすがにちょっと雲は残ってる。僕の本当の過ちとか、その根底にあった無理解とか、相互不信とか。

 でも、そういうのも含めてひどく晴れ渡っているんだ、僕の心は。この3年どころか生まれてから今まで、一度だってなかった気持ちだ。
 赤子が生まれた時ってこんな気分な気がする……とさえ思いながら、僕は続けて言った。

「それを踏まえて、3年越しだけどまた、立ち上がって歩きだそうって気にもなれたよ。レイアやみんなのおかげだ……今さらだけど、本当にごめんなさい。そして、ありがとうございます」
「……」
「そして。とりあえず、さ。この戦いに勝つことで、これまでのすべてにピリオドを打ってこれからをまた、始めるよ」

 ここまでして僕を再起させてくれた、レイア。応援してくれている、みんな。そしてそれらに応えたい、報いたいと思う、僕自身。
 ……もう、裏切れない。裏切りたくない。そう思っていてもまた間違えて、裏切って、そして見限られることもあるんだろう。だけどその度にまた、何度でもやり直せばいいってここにいるみんなが教えてくれた。

 誰一人として、何も裏切らず、間違えず、見限られたことのないものなんてないんだ、きっと。
 それでもなお立ち上がり、歩き出せる。それこそが人生であり、レイアの言葉を伝えた僕に、シアンさんが教えてくれたものなんだと思う。

 だから。今ここでまた、立ち上がって歩き出すために。
 やり直せない想いさえ背負って、やり直すために────まずはレイアを乗り越えてみせるよー!

「ソウくん……!!」
「レイア。ここからが本当の僕だよ。さっきまでみたいに上手に押し切ろうだなんて、思わないことだね……!!」
 
 驚愕に目を見開くレイアに、左手に持った杭打ちくんを向けてニヤリと笑う。
 ずいぶん時間がかかったけど。ずいぶんカッコわるくて最低な僕だったけど────ここから先は、すべてをぶち抜く最高のソウマ・グンダリだ! カッコいいかどうかは知らないけど!
 
 腕から放ったエネルギーは、今や僕の全身から噴き出している。異常な状態、なのにこれまでにないくらい調子がいい。
 それに何よりしっくり来る。まるで、今までの僕が本調子じゃなかったくらい、今この状態こそが当たり前だと感覚的に理解できる。

 なんだか笑っちゃうよ、不思議と胸が高鳴るんだ。
 恋のときめきのように、この力を思う存分使ってみたくてたまらない。もちろん、やりすぎない程度にだけどねー!

「行くよ!」
「! くっ……!?」

 胸踊る感覚のまま、滾る熱に身を任せて踏み込む。一歩、それと同時に放つエネルギーをレイアへ向ける。

 稲妻のような青白い光は彼女を貫くかのように勢いよく奔るけど、目的は拘束だ……避けられることさえ知ってるよ。
 レイアは余裕を持って右側へ飛んだ。それも理解している。ゆえに踏み込んだ先、一瞬で距離を縮めた先は何もない草原──レイアが光を回避して、ステップを踏んだその地点!!
 
「は、ぁ────!?」
「遅いよー!!」
 
 至近距離! 回避したと思ったらいつの間にか懐に潜られていたレイアの驚きを見上げ、僕は右腕を振るう。
 杭打ちくんを持たない素手のほう、コンパクトに体を回転させて、その勢いで垂直にアッパーを放つ!
 
「っ!!」
「そう来るよね、だから!」
 
 顎に向けての攻撃を、咄嗟に顔をわずかに逸らして回避するレイア。それも知ってる。だからすでに僕は、次の行動に入っているんだ。
 アッパーの際、回転させた胴体。それと同時に引く動作で僕は左腕を構えている。そう、杭打ちくんを。

 攻撃を回避するってのは、それが紙一重なら紙一重なほど、次の攻撃は避けきれなくなるものなんだよ。
 先読みしてのアッパーをギリギリ避けたその身体で、返す刀の杭打ちくんまで避けきれるかどうか。少なくともそう簡単には逃れられないつもりの2連撃だよ!
 
「避けられるかな? レイア!」
「何を、バカにしないで──!!」
 
 それでもさすがは元調査戦隊リーダー、現レジェンダリーセブン筆頭のタイトルホルダー! レイアはほぼ直感的だろう動きで、僕の攻撃に対応してきた。
 アッパーを避けた都合、上体を逸らした体勢でそれでもロングソードを盾にしたんだ。見えてないだろうにドンピシャで杭打ちくんの攻撃の芯を防いできてる、すごいよ!!
 
「ぶち抜け、杭打ちくん!!」
「防げずとも、流す……ッ!!」
 
 ロングソードごとぶち抜きたいけど、迷宮攻略法で武器強化はきっちりしている。杭打ちくんから射出された杭を完全に受け止めるレイア。
 ガキィィィィィィン! ──と甲高い音を立てる杭と剣、そしてそのまま振り抜く僕に合わせて、レイアは対抗せず押されるままに押し込まれる。吹き飛ばれるようにして結局、彼女は僕の射程から逃れてしまった。

 防御するとともに相手の勢いを利用して距離を取る、原理は簡単だけど実際にやるのは結構高等な技術だよー。
 お互いに武器を構え直す。完全に仕切り直しになった今、ここからが本当の試合ってわけだねー。