安全が確保できたという報せを受けて、僕らはすぐにエレベーターを出てレイア達の後に続いた。各自の持つランタンが、一つ一つは頼りないけど50も60も集まれば立派な光源になってくれる。
 階層全体をとまではいかないものの、目に見える範囲は十分に照らしてくれる光景。そして見えてきたものを、僕は具に観察する。

 レリエさん達が眠っていた、棺のある玄室と同質に思える素材の床と壁。何万年と放置され続けたからか埃まみれで、空気も割合澱んでいる。
 通路を抜けて見えてきた、広場っていうのかな? 遊び場? なんかよく分かんないけど開けた場所には謎の機器が山程あって、正面には外の景色を一望できる大きな、壁のようなガラスが見えていた。窓、だろうねー。

 すごい……光景だよ。この世のものとはとてもじゃないけど思えない。
 レオンくん達、一部の冒険者が挙って窓に近づき、そこから外を覗き込んで叫ぶ。

「見てくれみんな、一面ガラス張りだ! ここから外が見える……いや、見えねえ!? 真っ暗だ!」
「そりゃ光も何もない世界だからな、何か見えるはずもない。しっかしとんでもねえ分厚さだな、こりゃ……しかも強度もヤバい。杭打ちくんでもぶち抜けねえんじゃねえか?」

 外を見ようにも、何しろ世界丸ごと蓋をされているんだ。光なんて差すはずもなし、そんな状態で世界を眺められるわけもない。
 ガックリきてる冒険者達を横目にウェルドナーさんは、ガラスそのものに着目したみたいだった。コンコン、と窓を叩いて感心したようにつぶやく。
 そうだね……今の音から察するに、僕の杭打ちくんでもぶち抜けるかどうか。迷宮攻略法を駆使しての全力ならたぶんいけるだろうけど、素の状態だとちょっと厳しいかもねー。

 と、レリエさんが機器の前に立った。
 どこか険しい顔つきでそれらを見やり、しげしげと眺めつつ──やがてはいくらか、触り始める。
 
「……間違いなくターミナルね。私は一般市民だからここに立ち入ることは滅多になかったけど、たしか」
「レリエさん? 何かやるのー?」
「ええ、電源がたしか、ここのスイッチ……と。駄目ねやっぱり、エネルギーが枯渇してるのかしら」

 どうやらエレベーター同様、動かせないか試しているみたい。でも動く気配も見えないのは、さっきと同じでエネルギーが切れてるからなんだろうか。
 でも、そうなると対処法もさっきと同じになるよねー……ふと思いついたのは僕だけではなく、サクラさんもだった。ポンと手を鳴らし、レリエさんに提案している。
 
「エネルギーの枯渇なら、ソウマ殿でなんとかできるのではござらんか?」
「エレベーターをも動かしたんだし、同じ要領でイケるかもだね」
「えぇ……うーん? やってみるけどー、危なそうならやめるよー?」

 モニカ教授にも言われてしまっては断れないよー。うーん、あんまり危なそうなことしたくないんだけどなー。こういうのって冒険というか単なるリスクじゃないー?
 ぶつくさ言いつつ、でも僕も機器に触る。まあ言ってもね、ここまで来て僕だって何もしないは通らないからね。

 それにエレベーターが動いた以上、たしかに可能性は高い話だしー。
 動くかなー? 動くと良いなー? なーんて願いながらも触れば──
 
『システム・リスタート。BABEL-00001メインターミナル起動します』
「うわっ!?」
「動いた!?」

 ──唐突に機器が喋った! 同時に僕が触れているところだけでなく機器全体、果ては天井がピッカリと光周囲を明るく照らす!
 うわわわ、ランタンの比じゃないよー!? エレベーターもだったけど、お陽様の下みたいに明るいー!

 ビックリして思わず機器から離れて距離を取る。するとそれまでついていた各種明かりが消えて、また元の真っ暗闇にランタンばかりが光る有り様に戻っちゃった。
 な、何これー? 理解不能なことばっかりで、ことこの場に限ってはモニカ教授よりも詳しいだろうレリエさんに助けの視線を求める。
 説明してー!
 
「……収まった? もしかしてソウくんが触ってないと動かない?」
「というよりはエネルギー切れ……? 十分なエネルギーがあるならしばらく何もなくとも動くだろうけど、それまではソウマくんからのエネルギー供給が必要、とか?」
「えっ」
「ソウマ殿、ここにてしばらく足止めでござる?」
「ええっ!?」

 レリエさんの推測とサクラさんの疑問に身体が凍りつく。う、嘘でしょ?
 つまりそれってその……明かりがついてみんな自由に塔の中を探検していく中、僕だけここでお留守番ってこと!?
 冗談じゃないよー!?