知らない間にっていうか、物心つかないうちに数万年単位で何やら使われてたらしい赤ちゃんの頃の僕。
普通にドン引き物の計画にみんなもドン引き、僕もドン引きだよー。ほとんど全員が陰鬱な顔をして僕を見つめる中、レイアは締めくくるように言葉を発する。
「……かくして、幼くして神殺しを果たした子供は役割を終え、はるか数万年の果てに眠りから覚めました。それがソウくん、ソウマ・グンダリなのです」
「なんともはや……ダンジョンに生息していた時点でただ者ではないと思っていたが。よもや古代文明による最後の兵器、怨念の結晶とも言うべき復讐装置とはな。道理でいろいろ、人間離れしているわけだ」
「その言い方止めてー?」
ベルアニーさんの率直すぎる言葉が刺さるー。まあ怨念、復讐そのものだよねー、今の話を聞く限りー。
ただ、それとこれとは話が別で僕がダンジョンから這い出てきたって生い立ちや、迷宮攻略法込みでもいろいろ強めな性能しているのはあんまり関係がないと思うんだけどなー?
──と、そんな軽口を叩いたギルド長に剣呑な目が向けられた。取り分けシミラ卿、エウリデの騎士団長だった人が特に厳しい目をしてるよー。
「ギルド長、口が過ぎるぞ……我が友を悪し様に言うのは止してもらおう。今ここでギルド所属を辞め、新世界旅団に入団してもかまわないのだが?」
「ふむ? 別に中傷のつもりもなかったがな……口が過ぎた、すまんなグンダリ」
「はあ」
怨念とか復讐とか言っといてよくもまあぬけぬけと、って感じだけどー……元からして口の悪い冒険者達をさらに束ねているおじさんだからね、この人ー。
本当に中傷の意図はなかったっていうか、そもそも悪意なく客観的に発言していたんだろうなーってのはそれなりに付き合いも長いんだ、分かるよー。
とはいえそういうのが通じない人のほうがここには多い。新世界旅団の面々はじめ、古代文明人、友人達、元調査戦隊メンバー、果てはなんら関わりない冒険者の方々に至るまでみんなしてギルド長を非難がましく見ている。
これには堪らんと、ベルアニーさんは肩をすくめる。
「やれやれ、老いぼれると口もよく滑るようになって困る。いよいよ引退時かね、これは」
「引退は良いけど後任、ちゃんと据えときなよギルド長ー。変なのが後釜になったらそれこそ一大事だよー」
「ふむ。そうさな……アールバドにでも務めてもらえればと個人的には思うのだがね、それこそ3年前のあの事件の前からずっと考えていたことだ」
「あははは! 私まだまだ現役ですから! ウェルドナーおじさんとかどうです? 最近よく腰が痛いとかって言ってますし」
「レイア!?」
鮮やかに面倒ごとを叔父に受け流したレイア、さすがだねー。危機察知と回避能力は英雄の名に恥じないよー。
話を振られてウェルドナーおじさんが慌てふためく。たしかに、おじさんももう40近いお年だし、そろそろ腰を落ち着けるってのも悪くはなさそうなんだよね。
ベルアニーさんもさすがだよ、即座におじさんに視線をやっている。冒険者として、獲物は逃さないって目だねー。割と本気で引退したいみたいだ。
そんなアレコレはさておき、僕らは地下88階への道に到達した。途中襲ってくるモンスターは概ね僕とレイア、あとリューゼやカインさんで薙ぎ払っての、余裕の行軍だ。
3年前、僕ら調査戦隊メンバーが辿り着いた最奥部階層。知れず、パーティメンバーのみんなが息を呑むのを聞き取る。
そうだね、こここそ冒険者達の最前線、誰もが夢見た新天地、一歩手前の地点だよー。
ゆっくり慎重に下り道を進む。それなりに傾斜を滑らないように気をつけながら歩くと、やがて平らな地平に辿り着く。
……ああ。三年前と変わらないね、当たり前だけど。
レイアがしみじみと、みんなに告げた。
「さあ、ついたね地下88階……現時点で私達人類が到達できている、最深階層だよ」
赤茶けた土塊の壁と床は変わらず、けれど眼前に広がるは果てしない湖──そう、地下88階層はどこまでも先の見えない地底湖が広がっているんだ。
だけどそれだけじゃない。はるか向こう、微かに見えるものがある。サクラさんが目を凝らしてポツリ、つぶやいた。
「……扉? なんか柱があるでござる?」
「うん。この階層は広い湖の真ん中、扉の付いた柱があるだけなんだ。そしてその扉がどうしても開けられなくて、3年前僕ら調査戦隊はそれ以上の冒険を断念せざるを得なかった」
湖の先、中央にぽつねんと立つもの、柱。
中に入るための扉が一丁、拵えられてあるだけの簡素な造り。誰がどう見ても、そこからさらなる地下へと進入するんだって分かる、特異な地形だ。
だのに、僕らは3年前ここを突破できなかった。扉をどうやっても開けることができなかったんだ。
その上、破壊しようにもありえないほどに強力な防壁があらゆる攻撃、衝撃を無効化してしまい……調査戦隊はそこで完全に手詰まりになってしまったんだねー。
普通にドン引き物の計画にみんなもドン引き、僕もドン引きだよー。ほとんど全員が陰鬱な顔をして僕を見つめる中、レイアは締めくくるように言葉を発する。
「……かくして、幼くして神殺しを果たした子供は役割を終え、はるか数万年の果てに眠りから覚めました。それがソウくん、ソウマ・グンダリなのです」
「なんともはや……ダンジョンに生息していた時点でただ者ではないと思っていたが。よもや古代文明による最後の兵器、怨念の結晶とも言うべき復讐装置とはな。道理でいろいろ、人間離れしているわけだ」
「その言い方止めてー?」
ベルアニーさんの率直すぎる言葉が刺さるー。まあ怨念、復讐そのものだよねー、今の話を聞く限りー。
ただ、それとこれとは話が別で僕がダンジョンから這い出てきたって生い立ちや、迷宮攻略法込みでもいろいろ強めな性能しているのはあんまり関係がないと思うんだけどなー?
──と、そんな軽口を叩いたギルド長に剣呑な目が向けられた。取り分けシミラ卿、エウリデの騎士団長だった人が特に厳しい目をしてるよー。
「ギルド長、口が過ぎるぞ……我が友を悪し様に言うのは止してもらおう。今ここでギルド所属を辞め、新世界旅団に入団してもかまわないのだが?」
「ふむ? 別に中傷のつもりもなかったがな……口が過ぎた、すまんなグンダリ」
「はあ」
怨念とか復讐とか言っといてよくもまあぬけぬけと、って感じだけどー……元からして口の悪い冒険者達をさらに束ねているおじさんだからね、この人ー。
本当に中傷の意図はなかったっていうか、そもそも悪意なく客観的に発言していたんだろうなーってのはそれなりに付き合いも長いんだ、分かるよー。
とはいえそういうのが通じない人のほうがここには多い。新世界旅団の面々はじめ、古代文明人、友人達、元調査戦隊メンバー、果てはなんら関わりない冒険者の方々に至るまでみんなしてギルド長を非難がましく見ている。
これには堪らんと、ベルアニーさんは肩をすくめる。
「やれやれ、老いぼれると口もよく滑るようになって困る。いよいよ引退時かね、これは」
「引退は良いけど後任、ちゃんと据えときなよギルド長ー。変なのが後釜になったらそれこそ一大事だよー」
「ふむ。そうさな……アールバドにでも務めてもらえればと個人的には思うのだがね、それこそ3年前のあの事件の前からずっと考えていたことだ」
「あははは! 私まだまだ現役ですから! ウェルドナーおじさんとかどうです? 最近よく腰が痛いとかって言ってますし」
「レイア!?」
鮮やかに面倒ごとを叔父に受け流したレイア、さすがだねー。危機察知と回避能力は英雄の名に恥じないよー。
話を振られてウェルドナーおじさんが慌てふためく。たしかに、おじさんももう40近いお年だし、そろそろ腰を落ち着けるってのも悪くはなさそうなんだよね。
ベルアニーさんもさすがだよ、即座におじさんに視線をやっている。冒険者として、獲物は逃さないって目だねー。割と本気で引退したいみたいだ。
そんなアレコレはさておき、僕らは地下88階への道に到達した。途中襲ってくるモンスターは概ね僕とレイア、あとリューゼやカインさんで薙ぎ払っての、余裕の行軍だ。
3年前、僕ら調査戦隊メンバーが辿り着いた最奥部階層。知れず、パーティメンバーのみんなが息を呑むのを聞き取る。
そうだね、こここそ冒険者達の最前線、誰もが夢見た新天地、一歩手前の地点だよー。
ゆっくり慎重に下り道を進む。それなりに傾斜を滑らないように気をつけながら歩くと、やがて平らな地平に辿り着く。
……ああ。三年前と変わらないね、当たり前だけど。
レイアがしみじみと、みんなに告げた。
「さあ、ついたね地下88階……現時点で私達人類が到達できている、最深階層だよ」
赤茶けた土塊の壁と床は変わらず、けれど眼前に広がるは果てしない湖──そう、地下88階層はどこまでも先の見えない地底湖が広がっているんだ。
だけどそれだけじゃない。はるか向こう、微かに見えるものがある。サクラさんが目を凝らしてポツリ、つぶやいた。
「……扉? なんか柱があるでござる?」
「うん。この階層は広い湖の真ん中、扉の付いた柱があるだけなんだ。そしてその扉がどうしても開けられなくて、3年前僕ら調査戦隊はそれ以上の冒険を断念せざるを得なかった」
湖の先、中央にぽつねんと立つもの、柱。
中に入るための扉が一丁、拵えられてあるだけの簡素な造り。誰がどう見ても、そこからさらなる地下へと進入するんだって分かる、特異な地形だ。
だのに、僕らは3年前ここを突破できなかった。扉をどうやっても開けることができなかったんだ。
その上、破壊しようにもありえないほどに強力な防壁があらゆる攻撃、衝撃を無効化してしまい……調査戦隊はそこで完全に手詰まりになってしまったんだねー。