襲撃者達もひっ捕らえたし、さて今度は話を戻してガルシアさんだ。
 あんな連中とつるんでた以上、彼もまた反冒険者界隈に参加していたってことになるわけだけど……元調査戦隊メンバーが何をしてるんだよ、という視線で僕らもご家族も警部おじさんも視線が冷たい。
 
 僕が憎くてついには冒険者そのものまで嫌いになっちゃったのかな?
 だからって反冒険者運動に加担するのは極端すぎるけど、この人前から割と極端な人だったしなあ。平和主義を掲げた翌日には主戦論者になったり、その時の気分に合わせて主張を変えるややこしい人なんだよねー。
 
「さーてボンボンー、お主なんか我々に言うことあるでござろ」
「何がだ……さっさと縄を解け! この俺に何をしてるのか分かっていないのか、ヒノモトのサルが!」
「まだ吠えるのでござるか……」
「ある意味すさまじいわね……」
 
 この期に及んでなお減らず口をたたく、ガルシアさんにそろそろ怒りとか呆れとか超えて感心を抱いちゃいそうなサクラさんとシアンさん。
 ここまで無茶苦茶な人だったかなーって僕も首を傾げていると、モニカ教授が愉快そうに笑い、しかし冷たい目で捕縛されている兄を見下ろして言った。
 
「調査戦隊解散……いや、レイアリーダーとの別離がよほどショックだったんだよこの男は。そしてその引金ともなったソウマくんをひどく憎悪して、憎み続ける中で変質してすべてを憎むようになった。心底薄っぺらい精神性だ、いっそ観察しがいがある」
「変質……?」
「自分の恋がうまく行かなかったのはソウマくんのせいだ。ソウマくんのような人間が持て囃されるのは世の中がおかしいからだ……ってとこかな? 詳しい病理は解明していないがどうでもいい。元から叶わぬ想いだったのを、いつの間にやらこの男の中では勝手に成就寸前になっていたりもするからね」
「えっ……」

 そんなバカな。あの頃のレイアってそういう色恋沙汰より、とにかく迷宮の奥への好奇心と強さへの欲求、仲間との冒険に夢中だったのに。
 ガルシアさんとか以前に、誰かと惚れた腫れたするなんて感じじゃなかったのは間違いない。だって彼女の傍に一番いたのが僕だし、普通にありえないって分かるよ。

 なんならその関係で言えちゃうけど、ガルシアさんはそもそもレイアとろくに話もしてなかったじゃないか。いつも大体僕なりレジェンダリーセブンの誰かと一緒にいるから、用事もなしに話しかけることが難しかったはずだよー。
 何言ってるんだろうねこの人。疑問に思っていると当の本人が、声も枯らさんばかりに叫んで応えてきた。

「愚妹がまだ言うか! 俺とレイアは愛し合っていた! それをそこのクソガキクソゴミクソカス野郎が間男になって、全部ぶち壊していって!!」
「えぇ……?」
「レジェンダリーセブンのクソどももだ! あいつらが俺とレイアを引き裂いた!! レイアは、俺を愛していたんだお前らよりずっとずっとぉぉぉぉっ!!」

 超怖いよー、何この人ー。今になって見せた腹の中の、あまりに独り善がりかつ意味不明な妄想っぷりに声が出ない。
 こ、この人は本気で自分とレイアが恋仲だったって思い込んでいるのかなー? そしてそれを、僕や当時中枢メンバーだった連中が邪魔して引き裂いたって思い込んでいるのかな。
 嘘でしょー……?

「ほら見たまえ。これまで君相手には怖くて出せなかった本音がこれだ。馬鹿馬鹿しかろう、一々まともに考察するだけ無駄なのさ」
「こ……この人、完全に妄想で暴走してるってこと?」
「平たく言えば。いつまで経っても近づけないのをレジェンダリーセブンと杭打ちのせいにし続ける、狂人だよもはや」
「頭逝ってるでござるなー……」

 呆れ半分嘲笑半分に肩をすくめる教授。心底から実の兄を見下げ果てている様子に、おじさんおばさんが身を寄せ合って沈痛に俯いている。
 話を聞いていたレリエさんは顔を青ざめさせていた。サクラさんも、もはやここまで来たら馬鹿にするとかより先に怖くなったみたいで得体の知れないもののようにガルシアさんを見ている。
 こちらも慄然とした様子で、警部さんが彼を見てつぶやいた。

「こいつぁ、ちょいと精神的に問題ありですなあ。さきほどの襲撃者どもとの関係も調べにゃなりませんで、彼にもギルドまでご同行願わにゃなりませんが……場合によっちゃその前に心の病院送りもしれませんな」
「哀れな……現実を受け入れることもできず、憎悪だけを拗らせたのですね。調査戦隊にも、このような人がいたなんて」
「私の助手扱いなだけでぶっちゃけ、補欠要員みたいなものだったけどね。ソウマくんはじめ本物の調査戦隊メンバーと同等に扱うこと自体、調査戦隊に対して失礼な話だとさえ個人的には思うよ」
 
 もはや憐れむばかりのシアンさんに、追撃の口撃を放つモニカ教授。
 妹だからだろうか、兄相手にキツいねー。まあたしかに、調査戦隊メンバーとしてはあまりパッとしないほうではあったけど、さすがに補欠とまではいう気もないんだけどねー。