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 ウェブスター校の対戦相手は、世界最古のフットボール・クラブである強豪、シェフィールドFCのBチーム(二軍)だった。
 両チームのメンバーがポジションに着いた。シェフィールドBは2―3―5、ウェブスターは1―3―6だった。
 ヴィクターは、ハーフバックの真ん中に入っていた。よく通る澄んだ声で、あちこちに指示を出している。
 シェフィールドBのボールで、練習試合が始まった。ボールを受けた2番の溜めの間に、フォワードの選手が前線へと走る。
 大きな助走を取った2番は、走り込む勢いをそのままにキックを放つ。
 高弾道のロング・ボールが、ウェブスター陣地の深くへと飛んでいった。キック&ラッシュの見本のようなプレーだ。
 シェフィールドBの9番は、落下点へと着いた。高く上がったボールが、徐々に落ちてくる。
 しかし、ウェブスターのディフェンスが寄っていった。9番を肩で押し、9番はまともな跳躍さえできない。ボールは、シェフィールドBのコートまで跳ね返された。
「ギディオン! ナイス・クリア!」
 ウェブスターのベンチから、威勢の良い声が飛んだ。桐畑は、ウェブスターの唯一のディフェンスの選手、ギディオンを注視し始める。
 顔は卵型で、彫りは深い。整った面相の男前ではある。しかし視線は鋭く、厳つさが先に立つ印象だった。
 岩石のような身体は、見るからに頑強だった。背丈も一m九十近く、立ち居振る舞いには揺るぎない存在感があった。
(マルセロに続いて、とんでもない奴が出てきたな。体格の半端なさからして、間違いなく最高学年の生徒だろ。二、三歳の年齢差があるうちのフォワード陣で、対抗できんのか? まあ、やるっきゃないんだけどよ)
 桐畑は、深刻に考えながら観戦を続ける。
 ウェブスターのフットボールは、精密機械のようだった。核であるヴィクターがボールを持つと、選手たちは徹底的に連動して動いた。
 パスはグラウンダー(転がすボール)が中心で、フットボール黎明期のチームとは思えないほど、洗練されていた。
 ヴィクターは球離れが早く、派手さのないシンプルなプレーをしていた。しかしどこまでも的確で、頭脳の明晰さがひしひしと伝わってきた。
 後半の、三十分以上が経過した。スコアは、二対〇。ヴィクターの正確無比なスルー・パス二本で、ウェブスターが得点していた。
 シェフィールドBのフル・バックから、最前線の7番へとパスが出た。前を向いた7番は周囲を確認し、逆サイドの5番に蹴る素振りを見せた。
 その瞬間にギディオンは、「上げろ!」と吠えるように叫んだ。声に従って、ウェブスターの左ハーフバックがすっと前に出る。
 7番のキックと同時に、ホイッスルが鳴らされた。オフサイドの反則だった。
「守備を一人にして、簡単にオフサイドに掛けられるようにしてるんだ。それにしても、本当に巧みに味方を動かすよね。なかなか真似はできないよ」
 隣の遥香が、考え込むような声音で呟いた。
 桐畑はコート内に顔を向けたまま、静かに返事をする。
「パワー、スピードはマルセロ並で、頭もキレッキレと来た。あいつの攻略には、相当骨が折れんぞ。超一流のプロを相手にしてると思って、工夫に工夫を重ねてかねえとな」
 程なくして、試合終了を告げる笛が鳴った。二対〇。十代だけのチームが、二軍とはいえプロに完勝する結果だった。