第四章 Repatriation

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 翌日の新聞には、桐畑たちの試合の記事が、掲載された。それゆえか、一般生徒の歓待は一回戦の突破時よりも大きかった。教室でも廊下でも握手を要求された桐畑は、優勝への決意を強めた。
 準決勝の次の日の午後練は、イギリスで頻発する突発的な土砂降りだった。しかし、練習は通常通りに行われた。
 準備体操などが終わり、シュート練習に移った。キーパーの一人が体調不良で休んでおり、ダンが代わりに片方のゴールに入っていた。
 練習開始から五分が経ち、桐畑は、中央の二列の左側に並んでいた。静かに雨が降る芝生のコートには、ところどころに水溜まりが見られた。
 左からクロスを上げる選手が、助走を開始した。桐畑は全力で地面を踏み締めて、ニア(クロスが上がるサイドから近い位置)へと加速を始めた。
 クロスは、走る桐畑の足の間へと転がる。桐畑はとっさに後ろの左足を動かして、ショート・バウンドを捉えた。踵を用いたトリック・シュートだ。
 ボールはゴールの左上の隅へと向かうが、ダンは伸ばした両手でセーブした。
 ダンの前へとボールが転がる。さっと拾い上げた桐畑は、ブラムの後ろへと並び直した。
「今のコースを軽々シャット・アウトかよ。いいとこに飛んだと思ったんだがな。つくづくこの若校長は、侮れねえよな」
 感服する桐畑は本音を漏らした。
「ダン校長は学生時代、ハンドボールという球技の選手だったんだよ。知名度の低いスポーツだが、相当な腕前だったらしい。フットボールを学び始めた時期は、先生になってからだ。目下の俺たちにも礼儀を尽くすところといい、目標とすべき偉大な大人だ」
 真剣な目で前方を見たまま、ブラムはしみじみと語った。「ああ。校長がこの話をされた時、ケントもいたっけか」と、すぐに軽く付け足しがある。
 桐畑は、気持ちを目の前のシュート練習へと切り替えた。
「身体を被せて、シュートを低く抑えていけ」と、ダンの重厚な声が、灰色の支配するグラウンドに響き渡った。