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 倒れ伏す遥香の元に、桐畑を含む五、六人の選手とダンが駆け寄った。距離の遠さにも拘わらず、ブラムも来ていた。苦々しげに遥香を見つめながら、思案に耽っている様子だった。
 しばらくして遥香は、苦悶の表情とともによろよろと立ち上がった。そのまま控えの選手に肩を借りて、校舎へと歩いて行った。
 紅白戦は一対一で終了し、会員たちは遥香のいるロイヤル・フリー・ホスピタルに赴いた。
 白を基調とした病室の木製のベッドの上で、練習着のままの遥香は、足を前に投げ出した恰好で座っていた。
「どうだったんだ? アルマ」
 沈痛そのものな面持ちで、ブラムが静かに尋ねた。
 自分の足に平静な眼差しを向ける遥香は、少しの間を置いて返答した。
「心配してくれて、ありがとう。内側側副靱帯損傷で、全治十日。だから、準々決勝には大丈夫」
「そりゃあ十日なら、日程的には間には合うさ。でも、やっぱりアルマには……」
 ブラムが不平そうに割り込む。しかし、最後まで達さずに口を閉じる。
「わかった。また見舞いには来るが、詳細がわかり次第、何らかの方法で連絡をするように」
 訪れた静寂を、ダンの重厚な声が破る。
「はい」という遥香の返事に、ダンはおもむろに出口へと向き直った。歩き始めるダンを見て、会員たちも後に続こうとする。
「ケントは、もう少し残っていてくれる? 授業について、相談があるから」
 遥香の落ち着いた声がして、病室中の視線が桐畑に集まる。
 しばし狼狽える桐畑だったが、「わかった」と、はっきりと告げた。
 会員たちが、続々と病室を出て行く。名残惜しそうなブラムが、出口からしばらく意味深な視線をくれていたが、やがて去っていった。
 桐畑と遥香は意味もなく、無人の出口を見続けていた。
「桐畑君」と、遥香が思い出したかのように呟いた。
 桐畑がゆっくりと顔を向けると、遥香は遠くを見るような静かな目を病室の壁に向けていた。
「君、やっぱこのままじゃあダメだよ。今日の紅白戦でもさ。一見、しっかりプレーしてるようで、全然、入ってないよね。一番顕著に出てた場面は、自分でもわかるでしょ。あのボールは、君も追うべきだった」
 遥香の声音は穏やかだが、反論し難い雰囲気があった。恐縮する桐畑は、動きを止めて黙り込む。
「意欲さえあればさ、ほんとに、身の回りのすべての事柄から何かを得られるんだよ。遠い昔に起こった出来事からでも、一風、変わったルールのスポーツからでもね。ホワイトフォードの校訓じゃあないけど、自分を成長させるチャンスは、逃しちゃいけないよ。停滞ほど恐ろしいものはないんだからさ」
 振り向いた遥香と、目が合った。桐畑はなぜだか視線を外せない
 しばらくそうしていると、遥香の口角がほんのわずかに上がった。
「ってなーんか十五の小娘が、烏滸がましくも語っちゃったね。何様だって話だよね。だけど。君の心に何か響くものがあったなら、嬉しいかな」
 自嘲気味の遥香に、桐畑は「ああ」と、返答とも唸りともつかない声を出していた。どこか遠くから、馬車ががたがた走る音が聞こえてきていた。