期末テストも滞りなく終わり、夏休みを迎えた。八月某日。新月の日。わたしたち琴流女学院天文部メンバーは鳳女学院まで移動した。

 天文部メンバーとは部長の姫川さん、副部長の折笠さん、一年生の村雨さんとわたしこと鳴海千尋の四人。なんと引率の護国寺先生は親戚の法事で急遽不参加。彼は法事を断ってわたしたちに同行すると言いだした。それはわたしたちから断った。

 姫川さんはきっぱりといった。
「あたしたちのために自己犠牲してほしくない」
 彼女の聖少女としての片鱗を見た。

 電車を乗り継いで移動すること三時間。現地に到着したのはお昼過ぎ。折笠さんが用意した天体観測用機材をみんなで交代しながら運んだ。

 まわりを見渡すと山、山、山。空が異様に高い。駅周辺にはお土産屋がひっそりと営業している。

「ここから山頂までバスで移動するから。あそこがバス停みたい」

 鳳女子と交流がある姫川さんも学園まで行ったことはないみたい。

「やだーっ」
「どうしたのヒメ」

 時刻表を見て奇声をあげた姫川さんを折笠さんが気遣う。嫌な予感がする。

「つぎのバス二時間後だわ。ごめんみんな。これがホントの地獄表」

「まじか。ヒメに任せっぱなしにしたわたしたちも悪かったよ。とりあえずお昼食べましょう」

「待って。いま九条さんにRINNEするから」

 駅に隣接したお蕎麦屋さんで昼食を摂った。
 わたしは山菜そば。姫川さんは月見そば。村雨さんはとろろそば。折笠さんだけきつねうどんだった。

「よくとろろなんて食べられるわね」
 折笠さんはとろろそばを食べる村雨さんを横目に見た。

「美味しいですよ」
「だって、似てるじゃない。あれに」

「あれってなんですか?」
「食事中にはとてもいえないわ」
「やめてくださいよ」

「みんな! 九条さんのお父さんが迎えに来てくれるって」

 姫川さんが黄色い声をあげる。
 やったー! 持つべきものは友人だ。

 ほどなく九条さんのお父さんが車で迎えに来てくれた。

「わたしは旅館を経営していてね。よかったら温泉に入っていってください」

 九条さんのお父さんは老舗旅館の主人なのだ。

「じゃあ、合宿が終わったらみんなで入りましょうか」姫川さんの鶴の一声。
「やったー!」

 拍手と歓声があがる。これは楽しみだ。
 車で移動すること20分ほど。鳳女学院の姿が見えてくる。

 明治時代に建てられた旧家を改築してつくられた全寮制女学院は、ツタが壁面に複雑に絡まり歴史書から抜けだしたような異様な雰囲気だった。