わたしこと鳴海千尋が天文部を訪れると天文部部長である姫川天音先輩と副部長である折笠詩乃先輩が案内してくれた。
「もっとちゃんと挨拶しなさいよ」
「えー? めんどいよ」
姫川天音先輩はゲーム機をテーブルに置いて立ちあがった。
「あたしが天文部部長の姫川。姫川天音。よろしく」
視線を合わせた姫川さんは明朗快活な美少女に見えた。パーカーの上に琴流女子の制服を背負っている。お口には小さな球形ロリポップキャンディを咥えている。
透き通るような肌とアクアマリンを連想させる大粒の瞳。毛先だけメッシュが入った亜麻色の髪が印象的だった。
間近で見たとき『聖少女』という言葉が脳裏に浮かぶ。
それほどの美少女である。美少女でも近寄りがたい雰囲気はない。気さくな笑みが印象的だった。
「わたしは鳴海千尋と申します。なんのゲームをしていたんですか?」
わたしの問いに姫川さんは喜びの声をあげた。
「興味ある? 格闘ゲームだよ」
「格闘ゲーム、弟とやったことあります。ボコボコにされましたけど」
部室でゲームをやってよいのかな? と思いつつわたしは大好きなゲームへの関心を捨てきれない。携帯ゲーム機のモニタをのぞき込む。わたしが知らないゲームだった。
「このゲームは『メディウム・オブ・ダークネス』通称MOD。ライトノベル原作の同人格闘ゲーム。格闘ゲームはアーケードゲームとして古い歴史を持っているわ。あたしは格ゲーが好きでね。このゲームをやりこんでいる」姫川さんが説明した。
「一戦だけやってみない?」
「ええっ」
わたしは汗をかきながらも姫川さんに頼み込まれて格闘ゲームをすることになった。
このときは、姫川さんと折笠さんがあんなことを企んでいたなんて気づくはずもなかった。
コントローラ―を握る。姫川さんがセッティングして対戦モードがはじまった。
モニタにはプレイアブルキャラクターの一覧が並んでいる。
「好きなキャラ選んでね」
わたしはソードマスターのシオンというキャラを選んだ。姫川さんは神官見習いのクレリアというキャラだ。
「一戦目は技の練習してね。これコマンドリスト表」
姫川さんはスマートフォンにコマンドリストのスクリーンショットを表示してくれた。
姫川さんの優しい言葉に、わたしは技のコマンドを入力する。格闘ゲームでは必殺技をだすのにコマンドを入力する必要があるものがほとんどだ。コマンドはレバー下・右下・右+パンチボタンなどキャラクターによって決まっている。
わたしは弟と格闘ゲームをしたことはあるがこのゲームは知らなかった。
弟と格闘ゲームをしてもいつも負けてしまうので最近は対戦もしていない。わたしは複雑なコマンドを入力できるほど格闘ゲームをやりこんでいない。
コマンドリスト表を見ながらようやくひとつ必殺技をだせた。
歓声があがった。拍手で喜んでもらえる。気持ちの良い接待プレイだ。
そのあとも姫川さんは攻撃を適度に喰らってくれてわたしが勝利することができた。
「楽しかったです」
「この部はね。天文部として活動しているけど普段やることがないときは自習しても良いし、おしゃべりしても良いことになっているの。ただし、先生の前でゲームするのはなしね。大目玉だから」
折笠さんは人差し指を立てた。
彼女の話にこの部に入りたいという食指が動く。
「わたし、この部に入ります!」
折笠さんも姫川さんも笑顔がほころんだ。美少女ふたりの天使の微笑みだった。
「部活体験期間は有効に使ってね。待ってるわ」
姫川さんに送りだされ、わたしは部室をあとにした。
「……彼女は合格ね」
姫川さんはテーブルに両肘をついて相棒である折笠さんへ流し目を送る。
「これで良かったの? あなたの計画には本当に彼女が必要なの? 彼女、格闘ゲームのシロウトじゃない」
「Κонечно」※ロシア語でもちろん
姫川さんは美少女フェイスからは信じられないほどあくどい顔をしていた。
わたしが退室したあとのことなので、彼女たちが腹黒な本性を現していたことなど、このときのわたしには知る由もないのだった……。
「もっとちゃんと挨拶しなさいよ」
「えー? めんどいよ」
姫川天音先輩はゲーム機をテーブルに置いて立ちあがった。
「あたしが天文部部長の姫川。姫川天音。よろしく」
視線を合わせた姫川さんは明朗快活な美少女に見えた。パーカーの上に琴流女子の制服を背負っている。お口には小さな球形ロリポップキャンディを咥えている。
透き通るような肌とアクアマリンを連想させる大粒の瞳。毛先だけメッシュが入った亜麻色の髪が印象的だった。
間近で見たとき『聖少女』という言葉が脳裏に浮かぶ。
それほどの美少女である。美少女でも近寄りがたい雰囲気はない。気さくな笑みが印象的だった。
「わたしは鳴海千尋と申します。なんのゲームをしていたんですか?」
わたしの問いに姫川さんは喜びの声をあげた。
「興味ある? 格闘ゲームだよ」
「格闘ゲーム、弟とやったことあります。ボコボコにされましたけど」
部室でゲームをやってよいのかな? と思いつつわたしは大好きなゲームへの関心を捨てきれない。携帯ゲーム機のモニタをのぞき込む。わたしが知らないゲームだった。
「このゲームは『メディウム・オブ・ダークネス』通称MOD。ライトノベル原作の同人格闘ゲーム。格闘ゲームはアーケードゲームとして古い歴史を持っているわ。あたしは格ゲーが好きでね。このゲームをやりこんでいる」姫川さんが説明した。
「一戦だけやってみない?」
「ええっ」
わたしは汗をかきながらも姫川さんに頼み込まれて格闘ゲームをすることになった。
このときは、姫川さんと折笠さんがあんなことを企んでいたなんて気づくはずもなかった。
コントローラ―を握る。姫川さんがセッティングして対戦モードがはじまった。
モニタにはプレイアブルキャラクターの一覧が並んでいる。
「好きなキャラ選んでね」
わたしはソードマスターのシオンというキャラを選んだ。姫川さんは神官見習いのクレリアというキャラだ。
「一戦目は技の練習してね。これコマンドリスト表」
姫川さんはスマートフォンにコマンドリストのスクリーンショットを表示してくれた。
姫川さんの優しい言葉に、わたしは技のコマンドを入力する。格闘ゲームでは必殺技をだすのにコマンドを入力する必要があるものがほとんどだ。コマンドはレバー下・右下・右+パンチボタンなどキャラクターによって決まっている。
わたしは弟と格闘ゲームをしたことはあるがこのゲームは知らなかった。
弟と格闘ゲームをしてもいつも負けてしまうので最近は対戦もしていない。わたしは複雑なコマンドを入力できるほど格闘ゲームをやりこんでいない。
コマンドリスト表を見ながらようやくひとつ必殺技をだせた。
歓声があがった。拍手で喜んでもらえる。気持ちの良い接待プレイだ。
そのあとも姫川さんは攻撃を適度に喰らってくれてわたしが勝利することができた。
「楽しかったです」
「この部はね。天文部として活動しているけど普段やることがないときは自習しても良いし、おしゃべりしても良いことになっているの。ただし、先生の前でゲームするのはなしね。大目玉だから」
折笠さんは人差し指を立てた。
彼女の話にこの部に入りたいという食指が動く。
「わたし、この部に入ります!」
折笠さんも姫川さんも笑顔がほころんだ。美少女ふたりの天使の微笑みだった。
「部活体験期間は有効に使ってね。待ってるわ」
姫川さんに送りだされ、わたしは部室をあとにした。
「……彼女は合格ね」
姫川さんはテーブルに両肘をついて相棒である折笠さんへ流し目を送る。
「これで良かったの? あなたの計画には本当に彼女が必要なの? 彼女、格闘ゲームのシロウトじゃない」
「Κонечно」※ロシア語でもちろん
姫川さんは美少女フェイスからは信じられないほどあくどい顔をしていた。
わたしが退室したあとのことなので、彼女たちが腹黒な本性を現していたことなど、このときのわたしには知る由もないのだった……。