「いらっしゃい」
 現れたのは折笠さんのパパである折笠征十郎さんだった。

 折笠さんは勉強まで彼に教わっているらしい。
 年齢は五七歳。お父さんというよりおじいさんという年齢だが四〇を過ぎてできた娘を文字通り溺愛しているとか。だが背筋がピンとした年齢より若く見えるタイプである。

「うるさかった? わたしたち?」
 折笠さんが彼に問う。

「女三人寄れば姦しいともいうからね」
「いやだわ。女子高生四人いれば騒々しいでしょう。征十郎くん」

 折笠さんは父親のことをくんづけで呼んでいる。
「折笠さんはお父様のことをくんづけで呼んでいるのですか」

 わたしが気になっていることを村雨さんが質問した。直で尋ねるとか勇者だなあ。

「年齢はかなり離れているけど彼はわたしにとって優しい兄よ」
 折笠さんは髪の房をいじくる。征十郎さんは微笑んだだけだった。

「わたしは兄妹みたいな親子になりたかったんだ。詩乃は神様がわたしにくれた宝物。彼女はわたしの夢を叶えてくれただけさ。ごゆっくり」

 それだけいって退場した。
「そういえば護国寺先生は彼女さんとかいるのでしょうか」
 村雨さんは人差し指でブリッジをつくり上目遣いに質問した。

「やめたほうがいいわよ。護国寺先生はスクールカウンセラーの小山ひかり先生が好きだから」
 折笠さんが髪を指で巻きながら忠告する。

「どこでそんな情報を仕入れてくるのよ」
 姫川さんは折笠さんの情報網の広さになかば呆れ気味である。

「彼女がいるのにわたくしを誘惑したのですか?」
 村雨さんは相当なショックを受けている。

 いやいやいや。護国寺先生は自己紹介しただけだ。

「いんや。護国寺先生の片思い。ひかりちゃんの前で護国寺先生タジタジなんだもん」

「村雨さん、惚れっぽいって言われたことある?」
 わたしは村雨さんに尋ねた。

「エスパー⁉ 中学のときよく言われました」
 そりゃそうだ。好みのタイプが挨拶してくれただけで勘違いしているんだもん。

「ところで姫川さんと折笠さんはいつからの付き合いなんですか?」

「あれは太平洋戦争が終わったとき、シベリアから逃亡したあたしを匿ったのが詩乃でした……」

「ずいぶん昔ですね」
 姫川さんの大ボケに村雨さんが真面目なかえしをする。

「どあほう。あれはコトジョの入学式……」
 折笠さんは回想をはじめた。