姫川天音は中学生のころ教師たちから『聖少女』と噂されるほど、品行方正、容姿端麗であった。
 ロシア人クォーターでもある彼女は学内成績を連続一位で塗りかえ、部活ではバスケ部と演劇部を掛け持ちして結果を残した。

 中学一年生で生徒会の会長になり、二年連続で生徒会長を務めた。任期三年目のときは同じ人間が生徒会長を連続で務めるのはよくないとして辞退した。

 ある教師がまるでアメリカ合衆国初代大統領ジョージ・ワシントンのようだと褒め称えると彼女は「ネイティブアメリカンに対して苛烈な政策を執った人と比べないでください」と眉を吊り上げたのだった。

 ところが彼女が生徒会長として行った政策は生徒たちから面白いものではなかった。
 具体的な例を挙げるとスマートフォンは朝のホームルーム前か、放課後しか使用してはいけない。

 校門前の服装チェックの厳罰化、荷物検査を抜き打ちでやる、など。
 学校一の美少女でありながら彼女はほぼすべての生徒たちから憎まれ、陰で『暴君』といわれていた。

 成績優秀な彼女は誰もが進学校に進むと思っていたが、偏差値があまり高くない県外の女子校、琴流(ことながれ)女学院に進学した。
 彼女はその理由を誰にも語ることはなかった。

 彼女は以前のような『聖少女』でもなくまた『暴君』でもない。
 成績も平凡な生徒として学園生活を送りだす。
 それはなぜか……?

 物語は彼女が二年生になり新入生が入ってきて、とある少女と出会う所からはじまる。




イラストレーターイナ葉(@inaba_0717)さんによる姫川天音のラフです。イラストは無断転載禁止、AI学習禁止です。