そう無理に笑うと、芹野は担任教師に呼ばれているからと言って屋上から出て行ってしまった。
 残されたのは、那留と浦辺のみ。この気まずい空気とどうしようかと、左手首に付けた髪ゴムをいじりながら考えていると、浦辺が口を開いた。

「『みらい成長プロジェクト』だっけ? 説明受けたけど、随分都合がよくて呆れるほど身勝手な施策だよな」
「え?」
「だってそうだろ? 大人が思う清く正しい生徒を世に輩出する目的だろうけど、生徒の意志なんてお構いなしに採点するなんて、勝手すぎねぇ?」
「……その発言、すでに原点対象だから気を付けたほうがいいよ」
「ハハッ……大歓迎!」

 楽しそうに笑うと、太陽を背にし、那留に向けて両手を大きく広げた。

「ずっと籠の中でじっとしている鳥は、長年飛ばずにいると飛び方を忘れるらしい。しかし! この学校の生徒は飛ぶことすら考えていない! ……それっておかしくない? その翼は何のためにある? その口は、その声は、その足は何のために生まれたときから備わっている? アンタはそうやって考えたことは一度でもあったか?」
「……ごめん、言っている意味がわからないんだけど」
「周囲に抑え込まれて身動きが取れない、いわゆる洗脳に侵された奴らを解放するために、俺はここにきたんだ」

 洗脳? 解放? ――何を言っているのかさっぱりわからない那留だったが、浦辺の目を見てぞっと寒気が走り、その場にしゃがみ込んだ。
 獲物を狙ったような獣の目を持つ彼が、不敵の笑みを浮かべる。並べた言葉はすべて綺麗事なのに、本気なのがひしひしと伝わってくる。

『あーあ、今すぐ学校の真上に隕石が落ちてくればいいのに』

 ふと、何気なく呟いた芹野の小言を思い出す。
 彼はこれを予想していたのかと疑ってしまうほど、なんて良いタイミングだと呆れてしまった。国と大人に縛られた学校という世界に、隕石が降ってくるなんて誰も想像できない。
 問題児という、未確認生物に近い隕石を。

(浦辺遼……なんかやばい奴が来てしまった……!)

 茫然とする那留に、浦辺は手を差し伸べて挑発的に誘う。

「温めすぎた鳥籠の居心地はどうだい? 欠陥品(・・・)。そろそろ飛び方を思い出してもいい頃合いじゃないか?」