「よろしく! 音羽さんがいい? それとも名前で呼んでもいい?」

 転校生――(うら)()(りょう)はなんとも非常識な男だった。
 毛先を黒に染めた明るい茶髪のウルフカットに白パーカーを合わせて着崩した制服姿。ピアスは左に二つ、右に一つ付いている。『みらい成長プロジェクト』が導入された校則ではすべて違反に該当する。周囲が黒髪にフォーマルな制服姿だから、余計に目立つ。
 そんな彼を那留に紹介したのは、浦辺とは正反対の芹野だった。
 同じクラスだからとはいえ、なぜわざわざ屋上に連れてくるのか。那留は芹野を睨んだが、ただいつもと変わらず笑みを向けるだけだった。

「……って、聞いてる?」
「話しかけないでもらえます? 苦手なので」
「初対面なのに辛辣じゃない!?」
「初対面だからこそ、でしょ。……ねぇ、なんでこんなうるさい人を連れてきたの? 最悪なんだけど」
「那留だって俺以外の話し相手が欲しいかなって思って」
「いらない。本当だったら君だって――」
「いいじゃん、俺も()()()()()と仲良くなりたいなー」
「やめて……ああもう、本当にうるさいな」

 ずっと静かだった屋上が一気に騒がしい。那留は思わず耳をふさぐが、浦辺は構わず話しかけてくる。どこのクラスだとか、好きなものはなにかとか、部活に入っているかとか。基礎的な質問が一方的に投げかけられる中、芹野は一歩下がった位置で眺めていた。
 その表情がどこか思い詰めているような気がして、ずっと話しかけてくる浦辺の口元をふさいで芹野に問う。

「芹野、どうしたの? 変なのはいつものことだけど、何かあった?」
「失礼だな……なんでもないよ。ただ、俺がそろそろここに来られなくなるからさ」

 話を聞けば、卒業に向けた『みらい成長プロジェクト』の考査に入るという。すでに大学進学を決めているものの、被験者である芹野にはクリアすべき項目がある。
 成績はもちろん、態度も身なりも優等生以上にしっかりしている彼にも直すべき点があると思うと、不思議で仕方がない。
 詳しい内容は人によって変わるため、何が行われるかは公開されていない。本人には事前に伝えられているからこそ、なんとも言えない心境なのかもしれない。

「バカか、アンタは」

 いつの間にか那留が遮っていた手をどけて、浦辺は芹野に言う。

「学校に来ればいつでも那留ちゃんとは会えるだろ。少なくとも、俺は同じクラスなんだし、そんな暗い顔する必要ないって」
「……そうだといいな」