「確かに、プロジェクト目的で編入する人は少なくはないけど、全員が全員やばい奴ではないだろう?」
「どうだか。大人が欠陥品だと決めたら欠陥品なんだよ。例えば……私とか?」
「それは違う。被験者と欠陥品はイコールにはならない」
「口ではそういうけど、君も他の人と同じでしょ。……誰も好きでこうやって生まれてきたわけじゃないのにね」

 左の手首に付けた髪ゴムをいじりながら、那留の脳裏に浮かぶのは、化け物を見るような冷めた視線を向ける両親の姿だ。
 成績は中の下、教師からの評価も平凡で、たいして目立つようなこともしていない。しかしある理由で両親にはすでに愛想をつかされている。
 だから、那留はこのプロジェクトの被験者となった。自分を否定されても、両親が泣いて縋ってきたのを無下にはできず、それを受け入れることしかできなかった。

「欠陥品は放っておいてくれたらいいのに」
()()()だからじゃない? 目につく粗大ゴミは見捨てても、リサイクルできるものは拾うだろう。そこから分別はするかもしれないけど、更生を望む人だっているはずさ」

 芹野はそう言って鼻で笑いながら、空に向かって大きく伸びをした。
 芹野響の学校での成績は非常に秀才で、二世代に渡って政治家を輩出している家庭にも恵まれているが、その一方でこのプロジェクトの重要被験者とされている。プライバシーの保護のため、理由は公にされていないが、誰もが耳を疑った。そのたびに質問攻めをしてくるため、芹野はよくひとりで行動をしている。
 その中でも那留は、唯一芹野と日常的によく接している人物のひとりだった。もちろん、那留はこのことを知らない。
 しかし、那留も芹野から被験者である理由については、今日まで一切触れていない。大人たちの親切心で割り込んでくるプライバシーの侵害を、那留自身が嫌うからだ。

「芹野は『みらい成長プロジェクト』に賛成派なの?」
「全然。むしろ名称が嫌いだ。……あーあ、今すぐ学校の真上に隕石が落ちてくればいいのに」

 唐突に芹野が発した言葉に、那留は目を見開いた。
 学校の人気者で容姿も端麗、国立大学への推薦も手にしている優等生から、そんな自虐したような言葉が出てくるとは微塵も思ってもいなかったのだ。
 いくら被験者だとしても、彼は那留には手に入れたくても届くことすらできないものをすべて持っている。羨ましいのを通り越して妬んでしまうほど、芹野はたくさん、たくさん持っていた。

「別に思っていることを言ったっていいでしょ? 俺だって人間だもん。それに那留も、俺と同じことを考えているんじゃない?」

 どれだけ酷い顔をしていたことだろう。那留の反応を見て、芹野は苦い笑みを浮かべた。

「……なにが言いたい?」
「そのままの意味だよ」

 今にも消えてしまいそうな芹野の笑みに、那留は急に不安に駆られた。
 彼が何をしたいのかがわからない。那留に共感してほしいからとこぼした言葉だとしても、随分とお粗末な気がした。
 あのときもそうだった。
 一歩踏み出せば自由になれるのに、掴まれた手を振り払うことが、あのときの那留にはできなかった。