学校長は一度言葉を区切ると、何かを決意したようにふたりを見据えた。

「個性は、誰にも押さえつけられるものではありません。しかし、それを理解できない人も多数いる。受け入れてもらうには、この先どんな法案が成立し罰金制度が導入されたとしても、どうしても時間がかかってしまうことでしょう。社会に出たら、人はみな孤独です。周囲の人は自分のことで精一杯で、助けられる余裕はありません。だからこそ学校では、社会に出る君たちが何のしがらみもなく、自分の個性を恥じることなく、生きていけるように――不甲斐ない大人ではありますが、全力で支えさせてください」

 どこまで真意で、綺麗事なのか。今の那留と芹野にはわからない。
 素直に受け取ることもできないが、少しだけでも信じてみようと思ったのも確かだった。
 学校長と別れて教室に向かう最中、急に那留が足を止めた。

「ああ、もう……!」
「那留?」

 つられて芹野も足を止め、那留の顔を覗き込む。困ったような表情を浮かべながら、「……安易に屋上のフェンスに登れなくなったじゃん」と呟く()()に、芹野は小さく笑みを浮かべた。