「那留、俺は何度もやめろって言っているよね? そこまでして人生終わらせたい?」
「……君が止めなければ、私の人生はとっくに終わっているはずなんだけど」
「でもまだいるってことは、未練があるってことでしょ? もう少し生きてなよ」

 そう、那留は以前にもフェンスを乗り越え、飛び降りようとしたことがある。そのたびに芹野に止められているのだ。毎度タイミングが良いというか、那留にとっては悪でしかない。芹野には遠くにいても察知できるような触覚でもついているのだろうか。

「今、失礼なこと考えているだろ?」
「べ、別に……」
「わかるよ。顔に書いてある」
「気のせいだよ」
「あ、また面倒臭い奴って思った。大正解」
「……自虐しすぎじゃない? 他の生徒の前でもやっているの?」
「やらないよ。でも那留は俺を見てくれるだろ?」

 何を根拠に、と小さく睨めば、芹野は困ったように笑う。

(ああ、またその顔か)

 君だって気持ち悪いって思っているくせに――なんて、喉まで出かかった毒を吐き出すことはできなかった。