「これ、どういう状況? 意味が分からないんだけど」
「わからないって……なんで君が知らないの!? 父親から事前に教えてもらっていたとか!」
「あの人、仕事は家に持ち込まないからな。……そういえば、最近よく顔を合わせるなとは思っていたけど、これのため……?」
「でも急展開すぎる。すぐに廃止が決められるわけがないよ」

 芹野が試験官である田畑との面談後にあった悪質ないじめは、数日前の話。校内で解決された話とはいえ、短期間で国の方針を廃止が確定されるには早すぎる。

「急に世界が変わったみたいで気持ち悪い……」
「……ちがうよ」
「え?」
「ずっと変わってなんかいなかったんだ」

 芹野はそう言って那留の手を掴むと、駆け出した。
 楽しそうに談笑する生徒を追い抜かし、慌ただしい足取りで校門をふたりでくぐると、目を見開いた。
 あれだけ静かだった校内が、とても騒がしい。モノクロのような学校が、活気に溢れ、鮮やかに輝いて見える。
 中には、つい先日まで見られなかった様子がいくつか伺えた。金髪を揺らす女子生徒、恥ずかしそうに手を繋ぐ男子生徒たち、ボーイッシュな髪型に男性用にしては細めのスラックスを着用する者まで。
 その瞬間、那留の脳裏にある映像が浮かんだ。
 入学するよりももっと前。学校見学で初めてこの学校に足を踏み入れたときの――。

(――ああ、そうだ)

 浮かんだ映像と感覚が、じわじわと戻ってくる。外見を気にしない、活気あふれる学校だ。
 ずっと、憧れていた世界だ。

「芹野くん、音羽さん」