「これ全部、改ざんした資料? へぇ、上手く作ってんじゃん」
「え……な、何のことだい?」
「音羽那留を自殺未遂まで追い詰めたのも、芹野響の机に悪質ないじめまがいなことをしたのも、全部お前の仕業だな? やっていること小学生レベルで胸クソ悪い」
「……はっ! 馬鹿馬鹿しい! 私は国から派遣された試験官ですよ? そんな人間が子どもじみたことをするわけが……」
「この学校に派遣された試験官は五名。そのうち、アンタの受け持ち分の生徒の大半が留年や休学に追い込まれている。アンタが虚偽の報告を書き加えた結果だ。信じられないならこれはどうだ?」

 浦辺はスマホの画面を見せる。そこには田畑が今まで書き加えてきた報告書が表示されていた。さらに続けて、この特別室の田畑の座る席の真上から撮影された映像が流れた。そこには元の報告書から文面を削除し、書き換える田畑の様子がしっかり映し出されていた。

「これ、もう大臣には渡してあるからすでに手遅れだよ。アンタの企みはここでおしまい」
「……ふ、ふざけるな!」
「アンタはこのプロジェクトをはき違えている。これは生徒のためを思って作られた内容であって、汚い大人の理想を押し付けるものじゃない」
「黙れ!! この窮屈なプロジェクトを組んだのは大臣だ! 俺はそれに従っただけ! 清く正しい人間性を――」
「はぁ? 大臣の元案を書き換えてプロジェクトの方針を勝手に変えたのはアンタだろ」
「なっ――!?」
「全部わかってんだよ、欠陥品だからって舐めすぎ」
「……っ、クソ!!」

 田畑が浦辺に掴みかかろうとした途端、浦辺は持っていた釘バットを大きく振りかぶり、机の上を躊躇いもなく思い切り叩き込んだ。ガシャン!と大きな音が室内に響き、机は歪み、紙の資料は宙に舞う。
 間一髪で身を引いた田畑だったが、反動でその場に座り込む。
 すると、釘バットの先が今度はまっすぐに試験官を捉えた。外の微かな光に反射して、バットに打ち込まれた釘がギラギラと鋭く光る。

「ま、待ってくれ! 俺だけのせいじゃない! 従わなかったアイツらだって……」
「もう遅ぇよ」
「そ、そうだ! お前の評価を上げよう! 他の奴らについての考査結果も、俺が直せばそれで綺麗さっぱり万事解決だ! だから、だからぁ!!」

 その言葉に、浦辺は振り下ろそうとしていた釘バットを降ろす。鼻先まであと数センチというところで、田畑はホッと胸を撫でおろしたのも束の間。

「――綺麗もクソもあるか、ゴミ野郎」

 次の瞬間、劈くような悲鳴とともに、鈍い音が校内中に響き渡った。