昼間と変わらずにっこりと笑みを浮かべる浦辺に、田畑は反射的に後ろへ下がった。
 初対面ではないとはいえ、こんなに不気味に笑う奴だっただろうか。

「こ、こんな時間に何の用です? 校則違反を繰り返すなんて、処罰の対象になりますよ。早く帰り――」
「ああ、失敬失敬。妙な足跡を追ってきたらここに辿り着いたんですよねー」
「足跡?」
「これですよ、これ」

 そう言って浦辺がスマホのライトで床を照らす。ぼうっと浮き上がったのは、中途半端な形の靴底の跡だった。浦辺が適当にライトを振り回すと、特別室のあちらこちらにぼんやりと浮き上がっているのがわかる。

「芹野の机に使われた物と同じペンキの跡。体育館倉庫の奥に眠っていたペンキを引っ張り出してきたんだろ? そこだけ妙に埃が綺麗に拭き取られていたからな」
「な、何の話だい? それにペンキがなんで光って……?」
「このペンキには蛍光塗料が混ざっている。だから誰もいない、真っ暗な夜のタイミングを狙っていたんだ」
「へ、へぇ……そんなものがどうし、て……!」
「アンタの履いている靴底の隙間に残ってたんだよ。バカだなぁ、靴ごと替えときゃよかったものの、ブランド品だからって横着しすぎたな」

 田畑がハッとしたのと同時に、浦辺はすかさず指摘する。足元を見れば、うすらぼんやりと見える蛍光塗料。ペンキが飛ばないように十分気を付けたつもりだし、綺麗に磨いたはずだった。
 すると今度は、机の上に散らばった資料にざっと目を通しながら浦辺は言う。