途端、那留の顔から血の気が引いていく。それに気付いた芹野も起き上がった。

「左手につけっぱなしの髪ゴムがずっと気になっていた。ショートカットとはいえ、それだけ短ければ使いどころなさそうだからな。顔立ちは中性的だし、間違われることのほうが多いと思うが……上のジャケットとネクタイは男女兼用でも、性別でら(・)し(・)さ(・)を基準にしているこの学校に女子用のスラックスは存在しない。その恰好はいささか窮屈なんじゃねぇの?」

 浦辺に言われて那留は図星を突かれ、視線を落とす。その様子に思わず芹野が間に入った。

「浦辺、言い過ぎだ。那留だって知られたくないことがあって当たり前だろ」
「言っただろ、わかったうえで厳しいことを聞くって。アンタだってそうだ、たとえ今がいい子ちゃんぶれたところで、大人になったらみんな化けの皮が剝がれる。そういうものなんだよ、このプロジェクトは。大人の美談でしかない! そんなものに自分の人生を押しつけられて、悔しくないのか! そうやってまた()()()()()()()()()()()()逃げるのか! ()()!」
「~~~~っ!」

 途端、内側から力いっぱい叩きつけられるような頭の痛みが走り、那留はその場に蹲った。芹野と浦辺の焦った声も、雑音となって入ってくる。

『――めて、もういやだ……!』

 激痛が走る中、微かに聞こえた悲鳴に目を見開く。
 視界に飛び込んできたのは、長かった髪を切り刻まれ、片方の頬が赤く腫れあがっている自分だった。