浦辺が問う。喉まで出かかった怒りを抑えて、那留は続けた。
「『みらい成長プロジェクト』の被験者には、それぞれに番号が振られている。基本三桁で、百の位に振られた番号が欠陥部分のジャンルに分けられている仕様でね。もちろん、欠陥理由は特設サイトページに一覧表として掲示されているよ」
言われたように浦辺がスマホで検索すると、『みらい成長プロジェクト』による対象者の一覧表が出てきた。一は利き手、二は性別と、外見から内面について細かく指定されている。
その中で芹野が該当する三は、精神に関するものだった。
所詮は否定派の大人が考えた基準。当たり前しか受け取れない者の考えによって作られた一覧表。世間では取り消すよう反対運動を起こす者もいるが、政府の圧力によって公になっていない。
浦辺はそっと芹野に目を向けると、芹野は諦めたように少しずつ話し始めた。
「俺の恋愛対象は同姓。異性には何の感情も抱かないし興味もない。……中学の部活の先輩でそれを自覚したけど、誰かに話すことはしなかった。一生隠すつもりでいたからね」
しかし、祖父である元大臣が考案した『みらい成長プロジェクト』が導入された高校へ入学が決まった際に行われた検査で知られてしまった。
当時の試験官たちは皆、頭を悩ませた。なんせ芹野響の父親は、元大臣の後を継いで施策を動かしている指揮官だ。そんな彼らの中に欠陥品があると知ったら、世間は許してはくれないだろう。
そこで、父親の権限によって事情は隠され、「内部事情の視察」という名目を表に被験者になることになったのだ。
「昨日、プロジェクトの件で呼び出された。そのときに『対象が異なるのは自分の価値を落とす。ましてや祖父と父親の名に泥を塗ることになるから』と意識的に強制されそうになったんだ。まるで悪い宗教が人を増やすために行う洗脳みたいに」
「試験官が、大人が生徒を脅してきたってこと?」
「それがこの結果さ。おそらく今まで更生されてきた違反者たちは、きっと自分の欠点を公に晒されたくなくて言われた通りにしてきたんだろう」
「……なに、それ」
芹野の話を聞いて、那留は言葉を失った。まさかここまで限度を顧みない、過激なものに発展していようとは。無意識に震え出した自分の身体を抑えつけるように抱きしめる。浦辺もそれに気付いたようで、そっと那留の背中を擦りながら芹野に問う。
「それで、アンタは試験官って奴に反論したのか?」
「ちょっとね。どっかの誰かさんに焚きつけられたかなぁ」
「それって俺のこと? 照れるなぁ」
「褒めてないよ、一ミリも。……最悪だよ、いつもの俺ならこんなヘマはしないのに。でも被験者としては良い実験データになったんじゃない?」