されるがまま向かった屋上は、授業前ということもあってがらんとしていた。屋内に通じる扉を閉め、離れた場所まで行って腰を下ろした。

「屋上でなにすんの?」
「サボる」

 優等生らしからぬ言葉が芹野の口から出てくると、ふたりは顔を合わせた。那留はともかく、昨日が初日の浦辺まで「あの芹野がサボり?」と信じられないようだ。
 芹野は自分を落ち着かせるように、深呼吸を繰り返して呼吸を整える。しかし、那留が掴んだままの腕を離そうと反対側の手で触れると、芹野はさらに力を強めた。

「ごめん、自分でも思っていたよりショックだったらしい。こうなることはわかっていたはずだったんだけど」
「……三六四番、か。確かに大打撃かもね」

 那留が言うと、芹野の肩が小さく跳ねる。ただ番号を言っただけなのに、次第に芹野の表情はこわばっていくのがわかった。
 未だプロジェクトについて認識が薄い浦辺は、那留に目配せで訴えてくる。デリケートな話ではあるが、先程までの容赦なく問いかけてくる勢いはどこ行ったのやら。
 那留は躊躇いながらもしぶしぶ口を開いた。

「私も人伝で聞いた話だけど、『みらい成長プロジェクト』は芹野の父親と祖父の二代にわたって実施されているんだって。といっても、同じ苗字なんてたくさんいるし、噂程度だろうと思っていたけど……まさか本当なの?」
「……そうだよ。プロジェクトの発起人である芹野弘宗は、俺の祖父だ。それを引き継いだのが父で、俺はそれを近くで見てきた。……那留は、俺が被験者である理由を知っているかい?」
「噂が本当なら、内部調査だと思っているけど」
「半分正解。……残念だけど、俺はちゃんと欠陥品なんだ。お前と同じだよ」

 そう言って目を合わせた芹野に、那留は眉を顰める。
 彼は自分にはないものをたくさん、たくさん持っている。そんな彼が自分と同じだと、嫌味のようにしか聞こえなかったはずなのに。

「それって、机に書いてあった三六四番とかいう番号には何の意味があるわけ?」