「おい、誰がこんなことした!?」
「わ、わからないわ。来たときにはもう……」
「お、俺も……さっき来たばかりだし」

 浦辺が張り上げた声に、周囲の生徒は首を振る。どことなく怯えている生徒もちらほら見受けられた。
 机の周囲にはペンキが飛び散っており、まだ乾ききっていないようで、誰かが踏んだ跡がいくつか残されていた。つまり、生徒がこの教室に直前まで、誰かがこれを書いていたことになる。悪戯と呼ぶには悪質すぎだ。
 那留はふと、芹野が昨日、担任教師に呼び出されていたことを思い出す。もしかして何か関係があるのだろうか。

「しかもプロジェクトの発起人って……」

 那留が苦い顔をしながら呟くと、周囲の様子が一変、多くの生徒が目を逸らした。

「ったく、誰がこんなことを。こんな卑怯なことする奴は出てこい!」
「ちょ……ちょっとストップ! 浦辺が犯人捜しをする必要はないよ」

 今にも切れそうな浦辺を那留が制止する。

「これはただのいじめじゃない。『みらい成長プロジェクト』のひとつなんだよ。違反したうえ、指導さえも蹴った被験者に対する制裁……」
「はぁ!? そんなことを大人が容認していいってのか!」
「見て見ぬふりをするのだって時には必要なの、落ち着いて」
「落ち着いていられるか!」

 とにかく、こんなものがあるだけで気持ちが悪い。不愉快だ。

(でも誰も言い出せない。今度は自分が罰をくらうことになるから)

 この瞬間ばかりは、素直に口が回る浦辺が羨ましい。
 それでも犯人捜しをしようとする浦辺を、那留は止められない。どうしたものかと悩ませていると、誰かの手が浦辺の肩を掴んだ。驚いた浦辺も那留も、その人物に目を見開く。

「芹、野?」
「いいよ、浦辺。お前が怒る必要はどこにもない」

 その場にいた誰もが、芹野の顔を見て眉を顰めた。昨日最後に会ってから数時間経っただけなのに、やけにげっそりとした顔をしている。元々肌は白い方だったがさらに青白くなっていて、たった一晩の間に何があったのか、誰にも検討がつかなかった。

「みんなもごめん。今、新しい机を手配しているから、しばらくこのままにしておいて」

 困惑する周囲を安心させるように声をかけると、芹野は黙ったまま浦辺と那留の手を掴んで教室を出た。

「ちょっ……芹野? どこに行くんだ?」
「ついてきて。どうせ那留も屋上に向かおうとしていたんだろ?」
「うっ……」