「おっはよー! 那留ちゃん。元気?」
「……朝から煩い。近づいてくんな」

 翌日、校内をふらついていた那留の後ろ姿を捉えた浦辺が駆け寄ってきた。昨日数分話した程度で仲良くなった気でいる浦辺のテンションに早朝からついていけず、那留は深いため息をついた。
 浦辺の教室と屋上が同じ方向だからと言って、勝手に並んで歩く。周囲は不思議そうにこちらを見ていた。

「俺ってそんなに人気者?」
「人気者っていうか、嫌に目につくんじゃない? ……そのバッグとか」

 那留だけでなく、多くの生徒の目線の先にあるのは、浦辺が背負っているバッグだ。縦長の黒いケースは登山用のリュックでも、ギターケースでもない。むしろライフルバッグと言ったほうがしっくりくるものがある。

「これ? ああ、これはね……俺の大切な相棒が入っているんだ」
「相棒? そんなに縦長なの?」
「他の教科書とか入れると普通のバッグじゃ入らなくてさ。そっか、だからいろんな奴らが二度見してくるのか。そんなに変?」
「変でしょ。不自然すぎる」
「ええ……まぁ那留ちゃんが言うからにはそうなんだろうな」
「……ねえ、その『ちゃん』呼び辞めない? 反応しづらい」
「そう? 俺はこの呼び方が気に入っているんだけど」
「……もう好きにして」

 彼の勝手な持論に突っ込むのももう面倒だ。
 一方的に話しかけてくる浦辺を放置しながら歩いていると、ある教室に何やら人だかりができていた。集まっている生徒たちの顔色はとても困惑している。

「はいごめんよーちょっと通してくれ」

 人だかりをかき分けて中に入る。中央に置かれた机の上に、堂々と赤いペンキで書かれたそれを見て那留と浦辺は目を疑った。

『プロジェクト発起人の孫は三六四番、欠陥品はいなくなれ!』