僕達はメイド喫茶でしばらく時間を潰して、疲れが和らいだくらいで店を出た。
「……お昼の後のオムライスはちょっと罪悪感があるわね」
「今感じるんですね」
「だってメイドさんがいると、テンション上がって頼みたくなっちゃうんだもん。ユーぽんは感じない?」
「少しわかりますけど、僕は色々あって疲れていたので回復して良かったです」
やっぱり僕は食べる事がとても好きなのかもしれない。皆にも美味しそうにしていると言われているし。
充足感のに満たされた僕に対してモモ先輩はどこかぱっとしないようで。お腹辺りをさすっている。
「ユーぽんってスラッとしてて羨ましいわ。ミズちゃんもそうだけど、何かコツとかあれば教えて欲しいのだけど」
「特に何もしていませんけど。でも、僕から見たら全然気にしなくてもいいと思います」
眉をひそめていたモモ先輩はパァッと晴れやかになる。
「そ、そう? じゃあ、気にしないようにするわ。ありがとねユーぽん」
「僕はただ思った事を言っただけなので……」
「ううん、それだけで救われる子もいるの。これからは気にしないでいつも通り食べるわ」
「減らしていたわけじゃないんですね」
思い返せばカレーだって減らしていたわけじゃなかった。でも、心の安定をもたらせたなら何よりだ。
「食べたからってわけじゃないけれど、少し遊びたい所があるの。こっちに来て」
「は、はい」
メイド喫茶からさらに奥の方へと商店街を進み、途中右手の細い道を通った先に大通りが出て、すぐ左手の店をモモ先輩が指差した。そこは横に広く木製の紫の屋根に体部分は木目のある外観をしている。どこか魔術的な怪しい雰囲気を漂わせていた。上の方に看板があり『魔法射撃』と書かれている。
「モモ先輩、ここは?」
「簡単に言えば魔法の射撃場よ。ささ、入りましょ」
もしかしたら恐ろしい場所なのかと思い、モモ先輩の近くに寄って店内に入っていく。するとすぐに店の形の理由が見えてくる。受付の奥には、ドラマやアニメ見るような射撃スペースがいくつもあり、目標物として最奥の壁に白黒の縞模様の丸い的があった。そこに数字が書かれていて中心に向かって点数が高くなり、真ん中は百点だ。
「いらっしゃい」
「二人で一時間コースお願い」
「はいよ」
若い感じのお兄さんの店員さんにモモ先輩がお金を払い、僕達は一番近場のスペースを使う事に。台の上には真紅のピストルが一丁置いてあって、左隣のモモ先輩の方を見ても同様のものだった。
「これは魔法が撃てる銃よ。ここの安全装置を外して引き金を引けばフレイムっていう魔法が出るの。見ていて」
モモ先輩はお手本を見せるように操作をゆっくりと見せてくれる。そして魔法銃を両手で構えて的を目掛け、引き金を引いた。すると、銃口部分から赤い魔法が出現して、そこの穴を通るように小さな炎が放たれる。火の玉は的へと真っ直ぐ進み、真ん中から少しズレた八十点辺りにその跡がついた。
「おおー」
「こんな感じで中心に当たるように撃つの。普通に上手くなるように練習するのもよし。ゲーム形式にして競うのもよし。ま、そんな感じで自由に遊べるわ」
「撃てる回数は決まっているんですか?」
「気にしないで大丈夫よ。結構な数を使えるから」
チュートリアルはこれで終了といった感じで、どうぞと手で促される。僕は彼女のやり方を真似て、安全装置を外し的へと銃口を向けた。左目を瞑り右目で狙いを定めて、右の人差し指に力を入れた。瞬間、魔法陣が生まれ火球が発射された。
「……あれ」
でもそれは的に当たる事なく下の方の壁に当たっていた。もう一度やってみても的から逸れてしまう。五発くるい撃っていると内一つは当たったのだけどそれも隅で。まともに当たらない。
モモ先輩の方は、百点こそないけれどほとんどが真ん中付近に跡が集中していた。
「才能ないのかな……」
「そんな事はないわ、初心者なんだし。それにユーぽんの課題は明確だから」
モモ先輩はこっちに来てくれてアドバイスをしてくれる。
「まず撃つ時に目を閉じたら駄目。反動は無いから怖がらなくて大丈夫よ。それと、最後まで腕を動かさない事も意識して。そうすれば狙った方向に当てられるから」
指摘されて自分の問題に気づかされる。どちらも無意識にやっていた。
「それじゃあたしがサポートするからやってみよ」
「……え」
そう言うとモモ先輩は僕の横について、身体を密着させてきて両腕を支えてきた。突然女の子の温もりに包まれ、心臓の拍動が加速してしまう。
「さ、目を開けることを意識してやってみて」
「は、はい」
真剣に教わっているんだ、変な意識は横に置いて目の前の事に集中する。教わった通り僕は的に銃を構え、右目に力を入れ続けて魔法銃を放った。動きそうになる身体はモモ先輩によって抑えられ、火球はストーレートに放たれる。
残念ながら中心にはいかなかったけれど、的には当たった。それも六十点くらいの位置に。
「やった!」
「感覚を忘れない内にもう一回よ」
「はい!」
それから八発ほど撃った。それらは精度にばらつきがあったけれど、全て的に当たっていて。少なからず手応えも得ていた。
「それじゃあたしなしでやってみて」
モモ先輩は身体を離して少し距離を取った。外側からの圧力と熱がなくなり心細さを感じてしまう。でも、まだ微かに残っているその感覚とコツを意識して再度引き金を引いた。
「あ、当たりました!」
「おめでとう! いぇーい!」
「い、いぇーい」
自分のように喜んでくれて、さらにハイタッチを求められ、してみると気恥ずかしさが嬉しさより勝ってしまった。けれど、心が温かくなった。
それからモモ先輩無しで撃つと、二十点や三十点くらいの精度しかないけれど確実にヒットさせられるように。
「よし……!」
「ふふっ、楽しんでくれて良かったわ」
一つ一つ上手くなっていく感覚が得られて思わず夢中になってしまう。たまに実力以上を出せると、もっと出来る気がしてさらに成長しようと突き動かされた。
そうしているとついエルフ村の思い出が蘇る。丸太に向かってこんな感じの的にコノとホノカが魔法を当てていた。やってみると改めて凄さが分かる。
「ユーぽん、後二十分よ」
「え……もうですか?」
一時間コースは長いと思ったのだけど、想像以上に短かった。平均では三十くらいだけど、たまに五十を出せていて、目標はサポートされて出せた六十だ。
「せっかくだし勝負してみない?」
隣のスペースにいるモモ先輩は銃を片手にそう問いかけてきた。
「いやいや、流石に実力差がありますから」
言いながらふとロストソードの力を思い出す。ホノカの力を使えば互角に戦えるかも。……けれど、遊びに使って良いものとは思えず、その考えはしまった。
「あたしが五回やって、ユーぽんは十回の合計点でどう?」
「……少しは可能性は出てきましたけど」
「なら決まりね。交互に撃っていく形にして、それと負けた方は一つ言う事を聞くってルールにするわ」
少し乗り気になったところで途端にルールが追加されてしまう。
「そ、それいります?」
「賭けた方が緊張感出るでしょ。それじゃあたしから撃つわ」
「ご、強引過ぎる……」
半強制的に僕はゲームに参加させられる。子供っぽくはしゃぐモモ先輩を止められる訳もなく、さっきまで練習した成果の結晶を作るべく、僕は銃口を的に向け、そしてモモ先輩と僕の戦いの火蓋が切って落とされた。
「……お昼の後のオムライスはちょっと罪悪感があるわね」
「今感じるんですね」
「だってメイドさんがいると、テンション上がって頼みたくなっちゃうんだもん。ユーぽんは感じない?」
「少しわかりますけど、僕は色々あって疲れていたので回復して良かったです」
やっぱり僕は食べる事がとても好きなのかもしれない。皆にも美味しそうにしていると言われているし。
充足感のに満たされた僕に対してモモ先輩はどこかぱっとしないようで。お腹辺りをさすっている。
「ユーぽんってスラッとしてて羨ましいわ。ミズちゃんもそうだけど、何かコツとかあれば教えて欲しいのだけど」
「特に何もしていませんけど。でも、僕から見たら全然気にしなくてもいいと思います」
眉をひそめていたモモ先輩はパァッと晴れやかになる。
「そ、そう? じゃあ、気にしないようにするわ。ありがとねユーぽん」
「僕はただ思った事を言っただけなので……」
「ううん、それだけで救われる子もいるの。これからは気にしないでいつも通り食べるわ」
「減らしていたわけじゃないんですね」
思い返せばカレーだって減らしていたわけじゃなかった。でも、心の安定をもたらせたなら何よりだ。
「食べたからってわけじゃないけれど、少し遊びたい所があるの。こっちに来て」
「は、はい」
メイド喫茶からさらに奥の方へと商店街を進み、途中右手の細い道を通った先に大通りが出て、すぐ左手の店をモモ先輩が指差した。そこは横に広く木製の紫の屋根に体部分は木目のある外観をしている。どこか魔術的な怪しい雰囲気を漂わせていた。上の方に看板があり『魔法射撃』と書かれている。
「モモ先輩、ここは?」
「簡単に言えば魔法の射撃場よ。ささ、入りましょ」
もしかしたら恐ろしい場所なのかと思い、モモ先輩の近くに寄って店内に入っていく。するとすぐに店の形の理由が見えてくる。受付の奥には、ドラマやアニメ見るような射撃スペースがいくつもあり、目標物として最奥の壁に白黒の縞模様の丸い的があった。そこに数字が書かれていて中心に向かって点数が高くなり、真ん中は百点だ。
「いらっしゃい」
「二人で一時間コースお願い」
「はいよ」
若い感じのお兄さんの店員さんにモモ先輩がお金を払い、僕達は一番近場のスペースを使う事に。台の上には真紅のピストルが一丁置いてあって、左隣のモモ先輩の方を見ても同様のものだった。
「これは魔法が撃てる銃よ。ここの安全装置を外して引き金を引けばフレイムっていう魔法が出るの。見ていて」
モモ先輩はお手本を見せるように操作をゆっくりと見せてくれる。そして魔法銃を両手で構えて的を目掛け、引き金を引いた。すると、銃口部分から赤い魔法が出現して、そこの穴を通るように小さな炎が放たれる。火の玉は的へと真っ直ぐ進み、真ん中から少しズレた八十点辺りにその跡がついた。
「おおー」
「こんな感じで中心に当たるように撃つの。普通に上手くなるように練習するのもよし。ゲーム形式にして競うのもよし。ま、そんな感じで自由に遊べるわ」
「撃てる回数は決まっているんですか?」
「気にしないで大丈夫よ。結構な数を使えるから」
チュートリアルはこれで終了といった感じで、どうぞと手で促される。僕は彼女のやり方を真似て、安全装置を外し的へと銃口を向けた。左目を瞑り右目で狙いを定めて、右の人差し指に力を入れた。瞬間、魔法陣が生まれ火球が発射された。
「……あれ」
でもそれは的に当たる事なく下の方の壁に当たっていた。もう一度やってみても的から逸れてしまう。五発くるい撃っていると内一つは当たったのだけどそれも隅で。まともに当たらない。
モモ先輩の方は、百点こそないけれどほとんどが真ん中付近に跡が集中していた。
「才能ないのかな……」
「そんな事はないわ、初心者なんだし。それにユーぽんの課題は明確だから」
モモ先輩はこっちに来てくれてアドバイスをしてくれる。
「まず撃つ時に目を閉じたら駄目。反動は無いから怖がらなくて大丈夫よ。それと、最後まで腕を動かさない事も意識して。そうすれば狙った方向に当てられるから」
指摘されて自分の問題に気づかされる。どちらも無意識にやっていた。
「それじゃあたしがサポートするからやってみよ」
「……え」
そう言うとモモ先輩は僕の横について、身体を密着させてきて両腕を支えてきた。突然女の子の温もりに包まれ、心臓の拍動が加速してしまう。
「さ、目を開けることを意識してやってみて」
「は、はい」
真剣に教わっているんだ、変な意識は横に置いて目の前の事に集中する。教わった通り僕は的に銃を構え、右目に力を入れ続けて魔法銃を放った。動きそうになる身体はモモ先輩によって抑えられ、火球はストーレートに放たれる。
残念ながら中心にはいかなかったけれど、的には当たった。それも六十点くらいの位置に。
「やった!」
「感覚を忘れない内にもう一回よ」
「はい!」
それから八発ほど撃った。それらは精度にばらつきがあったけれど、全て的に当たっていて。少なからず手応えも得ていた。
「それじゃあたしなしでやってみて」
モモ先輩は身体を離して少し距離を取った。外側からの圧力と熱がなくなり心細さを感じてしまう。でも、まだ微かに残っているその感覚とコツを意識して再度引き金を引いた。
「あ、当たりました!」
「おめでとう! いぇーい!」
「い、いぇーい」
自分のように喜んでくれて、さらにハイタッチを求められ、してみると気恥ずかしさが嬉しさより勝ってしまった。けれど、心が温かくなった。
それからモモ先輩無しで撃つと、二十点や三十点くらいの精度しかないけれど確実にヒットさせられるように。
「よし……!」
「ふふっ、楽しんでくれて良かったわ」
一つ一つ上手くなっていく感覚が得られて思わず夢中になってしまう。たまに実力以上を出せると、もっと出来る気がしてさらに成長しようと突き動かされた。
そうしているとついエルフ村の思い出が蘇る。丸太に向かってこんな感じの的にコノとホノカが魔法を当てていた。やってみると改めて凄さが分かる。
「ユーぽん、後二十分よ」
「え……もうですか?」
一時間コースは長いと思ったのだけど、想像以上に短かった。平均では三十くらいだけど、たまに五十を出せていて、目標はサポートされて出せた六十だ。
「せっかくだし勝負してみない?」
隣のスペースにいるモモ先輩は銃を片手にそう問いかけてきた。
「いやいや、流石に実力差がありますから」
言いながらふとロストソードの力を思い出す。ホノカの力を使えば互角に戦えるかも。……けれど、遊びに使って良いものとは思えず、その考えはしまった。
「あたしが五回やって、ユーぽんは十回の合計点でどう?」
「……少しは可能性は出てきましたけど」
「なら決まりね。交互に撃っていく形にして、それと負けた方は一つ言う事を聞くってルールにするわ」
少し乗り気になったところで途端にルールが追加されてしまう。
「そ、それいります?」
「賭けた方が緊張感出るでしょ。それじゃあたしから撃つわ」
「ご、強引過ぎる……」
半強制的に僕はゲームに参加させられる。子供っぽくはしゃぐモモ先輩を止められる訳もなく、さっきまで練習した成果の結晶を作るべく、僕は銃口を的に向け、そしてモモ先輩と僕の戦いの火蓋が切って落とされた。