休み終えてから上体を起こすと、少し遠くの前方の空の少し上に巨大な島が見えた。
「あれがイシリスの街?」
「そう。もうちょっと歩けばゴンドラに着くから、頑張ろ」
アオはぴょんと立ち上がると服についた草を払って、僕に手を差し伸べてくる。素直に手を取って僕も起き上がった。そして繋いだまま足を動かし移動を開始。
「ええと……ここにもヤバイのが?」
「いないけど、何が起こるかわからないからね。でもだーいじょぶ。私がユウを守るから」
「あ、ありがと」
何だか嬉しいような情けないような気持ちになる。
そんな風に近くで守られながら、草原の上を進んでいった。度々、魔獣を見かけるのだけど、それらは白や黒色をしていて、その姿は牛だったり豚だったり、鹿だったりと少し違いはあるものの前の世界でも見覚えのあるものばかり。もちろんの襲われることもなかった。
「もしかしてゴンドラってあれ?」
「そう結構近いでしょ」
十分もかからず島の端が見えてくるのと同時に人工的な物体をはっきり視認できた。それは丸っぽい長方形のフォルムで濃い青色をしている。大きな窓がついていて、中は数十人くらい乗れそうな広さだ。地面に置かれていて、上にあるはずの動くための網はなかった。そのゴンドラの少し離れた右隣には、同じくらいの大きさの擦り跡も残っている。
「これって動くの?」
「もちだよ。さぁ乗って」
アオが右側面のドアに手をかざすと自動で開く。一緒に乗り込むと、今度はゴンドラの頭の方の窓をコツンと叩くと、ゲームで出てきそうな水色の丸い魔法陣が浮かび上がった。それがぐるぐると回りだすと、ゴンドラが浮かび上がりゆったりと動き出した。
「ま、まさか空を飛んでるの?」
「魔法があるんだから、空飛んでもおかしくないでしょ」
「そ、そうかもしれないけど」
想像していても現実に起きて驚くのは仕方ないと思う。窓から下を眺めると、もうそこに地面は無くて、白い雲が広がっていた。高い所にいるという記憶からビルから飛び降りた瞬間を思い出してしまい、窓から顔を離した。
「気分悪くなっちゃった? ここ座って」
「う、うん」
ゴンドラのお尻部分に座るスペースがあって、アオと一緒にそこへ腰を下ろした。
「ユウって高所恐怖症だったけ?」
「ううん、何でもないんだ。ちょっとここから落ちる想像をしただけで」
「あははっ、そういうことか〜。でも安心してこのゴンドラは落ちたことがないんだよ」
内部では揺れたり風の音がしたりすることはなかった。スイスイと飛び続けて、イシリスの街まで半分というところまで来る。
「空を飛ぶ魔法があるなら、乗らなくても自分で飛んで島に行くことはしないの?」
「空飛ぶ魔法はめっちゃ高度で魔力を使うし、それを維持し続けなきゃならなくて大変なんだって。しかも島と島は離れてるし長時間だから現実的じゃないの」
「燃費が悪いんだね」
ひとえに魔法といってもちょちょいのちょいって感じじゃないみたいだ。
「昔にはそれが出来た超人がいたみたいだけど。でも、そんな選ばれた人しか無理。そんな時、ある人が誰でも行けるようにこれを作ったんだ。このゴンドラの内部には大量の魔石っていう魔力の源が入っていて、それを効率的に使う仕組みが施されてるの。それにさっき魔法陣が出たでしょ? 魔法って呪文が必要なんだけど、覚えるのがすっごく大変。だから、呪文で作られた魔法陣を刻印することで、体内にある魔力をちょっと流すだけで発動するようになってるんだ」
「……すごいイノベーションだね」
ファンタジー世界でこの単語を使うとは思っていなかった。というか、あの魔法陣って文字で作られていたのか。
「ちなみに、その人は私の師匠なのです!」
「本当に?」
そういえば、あのぬいぐるみを出したとき師匠お手製とか言っていた。
「しかも、街についたらまずはその人のマギア店に行くの。店の名前は『マリア』っていうんだ、可愛いよね」
「マギアって、魔法の機械だっけ。アイテムを補充しに?」
「ふっふっその店にはもう一つの姿があるのです。それはですね、私達ロストソードの使い手の拠点でもあるのでした〜」
そう言いながら、ロストソードを手に出してブンブンと左右に振り回した。
そうこうしている内に前を見るともう街に近づきつつあって、後方を振り返るとさっきまでいた島は遠くにある。
「そろそろだよ」
ぱっと見の街並みは、道路がコンクリートのようなもので綺麗に舗装されていて、様々な形の家々があり、人々の服装も色とりどりだった。
街の中に入ってすぐにゴンドラは地面に着陸。ドアが再び開き僕達は外に出た。すると、ゴンドラはドアをひとりでに閉めるとそのまま元の場所に戻っていく。
「取り残されてる人を防ぐために片道になってるの。行きはその隣のゴンドラでね」
隣接して同じくデザインのゴンドラがあった。それに、どうやらここはゴンドラの発着場のようで、様々な色のゴンドラが並んでいた。
「それじゃお店に行こう!」
発着場には外に出るためのテーマパークに入るようなゲートがあって、窓口に黒色のスーツを着て白の丸い帽子を被ったお姉さんがいる。そこを通るのだけど、ペコリとお辞儀されるだけで止められることはなく通過した。
「ここって利用する時に料金がかかるんだけど、私達は特別に無料で使えるんだっ」
「そんな特別待遇を受けるほど重要なお仕事なんだね……」
より重圧がかかってくる。若干逃げたくなるのだけど、その先はないので圧に立ち向かうしかなかった。
街の中はそこそこの人通りがあって、ファンタジーの世界というよりも現代に近い街並みだった。真ん中に大きな道があり、左右の両端に三人分くらいの幅の道がある。真ん中には、馬車やメカメカしい人形の人力車、バスのような乗り物が行き交っていて、両端の道に歩行者が闊歩していた。周囲を見回すと建物のほとんどが民家のようなのだけど、西洋風な家や和風の家、モダンな四角い家なんかもある。すれ違う人は、普通な人だけじゃなくて、獣の耳を持つテーリオ族や耳が尖っているエルフのような人もいた。服装も、冒険者や戦士のような服の人もいれば、アオの言う通り洋服や和服何かを着ているような人もいて、中にはコスプレのようなメイド服の女の子がいた。
感想を一言で表すならそれは。
「カオスだ」
「すごいでしょ。私達と同じ世界から向こうから来た人の影響で、色んなのがあるんだよ。もちろん私もその一人。この国の王様が新しいもの好きでどんどん取り入れちゃうんだよ〜」
僕達は左側の歩道を歩いてお店に向かっていた。田舎から都会に上京した人のようにキョロキョロしながら。前からゴミ袋を抱えたおばあさんが歩いてくるのだけど、その人はパワードスーツみたいなのを着用していて、軽々持っていた。
「そうそう、イシリスの街について教えておくね」
彼女によると、この街は東西南北でエリアが分かれているらしく、セントラルパークという広い公園を中心にして、今歩いている西は住宅エリア。南は商業エリアでイシリス商店街があって、北に城がそびえ立っている。東には、テーマパークやスポーツのためのスタジアム、そしてシンボルのイシリスタワーがあるとか。
「師匠のお店はこの西エリアにあるの。ここを曲がるよ」
大通りから外れ細い小路に入る。道は砂利で周辺の建物は古めかしいものばかりで手入れされておらず、ほとんどが空き家のようだ。ここに入った途端に、活気は失われていて、別の世界にすら思えてくる。
「ここだよ」
しばらく道なりに真っ直ぐ進んでいると開けた場所に出て、そこにはポツンと紫の三角屋根の大きな家がそこにはあった。広々とした空間にあって、その家がもう一軒立ちそう。
近づくとドアは木製で、その横には『マリア』という看板が置いてあった。
「ただいまー師匠」
「おかえり、ミズア」
店内はウッド内装のカフェのような感じの落ち着いてオシャレな雰囲気だった。棚が沢山あってその上に色々なマギアが売りに出されている。奥にはカウンターがあってそこに女性が一人いて。
「連れてきたよ」
「こ、こんにちは」
師匠と呼ばれたその人は二十代後半くらいの美人だった。紫の長い髪を伸ばして、同じ色の綺麗なアーモンド型の瞳をしている。大きな胸を腕で抱えていて、何より特筆すべき点は白衣を着用していることだった。その出で立ちは師匠というより博士だ。
「待っていたわ日景優羽くん。私はアヤメよ。よろしくね」
アヤメさんは全てを見透かしたように目を細めて微笑
「あれがイシリスの街?」
「そう。もうちょっと歩けばゴンドラに着くから、頑張ろ」
アオはぴょんと立ち上がると服についた草を払って、僕に手を差し伸べてくる。素直に手を取って僕も起き上がった。そして繋いだまま足を動かし移動を開始。
「ええと……ここにもヤバイのが?」
「いないけど、何が起こるかわからないからね。でもだーいじょぶ。私がユウを守るから」
「あ、ありがと」
何だか嬉しいような情けないような気持ちになる。
そんな風に近くで守られながら、草原の上を進んでいった。度々、魔獣を見かけるのだけど、それらは白や黒色をしていて、その姿は牛だったり豚だったり、鹿だったりと少し違いはあるものの前の世界でも見覚えのあるものばかり。もちろんの襲われることもなかった。
「もしかしてゴンドラってあれ?」
「そう結構近いでしょ」
十分もかからず島の端が見えてくるのと同時に人工的な物体をはっきり視認できた。それは丸っぽい長方形のフォルムで濃い青色をしている。大きな窓がついていて、中は数十人くらい乗れそうな広さだ。地面に置かれていて、上にあるはずの動くための網はなかった。そのゴンドラの少し離れた右隣には、同じくらいの大きさの擦り跡も残っている。
「これって動くの?」
「もちだよ。さぁ乗って」
アオが右側面のドアに手をかざすと自動で開く。一緒に乗り込むと、今度はゴンドラの頭の方の窓をコツンと叩くと、ゲームで出てきそうな水色の丸い魔法陣が浮かび上がった。それがぐるぐると回りだすと、ゴンドラが浮かび上がりゆったりと動き出した。
「ま、まさか空を飛んでるの?」
「魔法があるんだから、空飛んでもおかしくないでしょ」
「そ、そうかもしれないけど」
想像していても現実に起きて驚くのは仕方ないと思う。窓から下を眺めると、もうそこに地面は無くて、白い雲が広がっていた。高い所にいるという記憶からビルから飛び降りた瞬間を思い出してしまい、窓から顔を離した。
「気分悪くなっちゃった? ここ座って」
「う、うん」
ゴンドラのお尻部分に座るスペースがあって、アオと一緒にそこへ腰を下ろした。
「ユウって高所恐怖症だったけ?」
「ううん、何でもないんだ。ちょっとここから落ちる想像をしただけで」
「あははっ、そういうことか〜。でも安心してこのゴンドラは落ちたことがないんだよ」
内部では揺れたり風の音がしたりすることはなかった。スイスイと飛び続けて、イシリスの街まで半分というところまで来る。
「空を飛ぶ魔法があるなら、乗らなくても自分で飛んで島に行くことはしないの?」
「空飛ぶ魔法はめっちゃ高度で魔力を使うし、それを維持し続けなきゃならなくて大変なんだって。しかも島と島は離れてるし長時間だから現実的じゃないの」
「燃費が悪いんだね」
ひとえに魔法といってもちょちょいのちょいって感じじゃないみたいだ。
「昔にはそれが出来た超人がいたみたいだけど。でも、そんな選ばれた人しか無理。そんな時、ある人が誰でも行けるようにこれを作ったんだ。このゴンドラの内部には大量の魔石っていう魔力の源が入っていて、それを効率的に使う仕組みが施されてるの。それにさっき魔法陣が出たでしょ? 魔法って呪文が必要なんだけど、覚えるのがすっごく大変。だから、呪文で作られた魔法陣を刻印することで、体内にある魔力をちょっと流すだけで発動するようになってるんだ」
「……すごいイノベーションだね」
ファンタジー世界でこの単語を使うとは思っていなかった。というか、あの魔法陣って文字で作られていたのか。
「ちなみに、その人は私の師匠なのです!」
「本当に?」
そういえば、あのぬいぐるみを出したとき師匠お手製とか言っていた。
「しかも、街についたらまずはその人のマギア店に行くの。店の名前は『マリア』っていうんだ、可愛いよね」
「マギアって、魔法の機械だっけ。アイテムを補充しに?」
「ふっふっその店にはもう一つの姿があるのです。それはですね、私達ロストソードの使い手の拠点でもあるのでした〜」
そう言いながら、ロストソードを手に出してブンブンと左右に振り回した。
そうこうしている内に前を見るともう街に近づきつつあって、後方を振り返るとさっきまでいた島は遠くにある。
「そろそろだよ」
ぱっと見の街並みは、道路がコンクリートのようなもので綺麗に舗装されていて、様々な形の家々があり、人々の服装も色とりどりだった。
街の中に入ってすぐにゴンドラは地面に着陸。ドアが再び開き僕達は外に出た。すると、ゴンドラはドアをひとりでに閉めるとそのまま元の場所に戻っていく。
「取り残されてる人を防ぐために片道になってるの。行きはその隣のゴンドラでね」
隣接して同じくデザインのゴンドラがあった。それに、どうやらここはゴンドラの発着場のようで、様々な色のゴンドラが並んでいた。
「それじゃお店に行こう!」
発着場には外に出るためのテーマパークに入るようなゲートがあって、窓口に黒色のスーツを着て白の丸い帽子を被ったお姉さんがいる。そこを通るのだけど、ペコリとお辞儀されるだけで止められることはなく通過した。
「ここって利用する時に料金がかかるんだけど、私達は特別に無料で使えるんだっ」
「そんな特別待遇を受けるほど重要なお仕事なんだね……」
より重圧がかかってくる。若干逃げたくなるのだけど、その先はないので圧に立ち向かうしかなかった。
街の中はそこそこの人通りがあって、ファンタジーの世界というよりも現代に近い街並みだった。真ん中に大きな道があり、左右の両端に三人分くらいの幅の道がある。真ん中には、馬車やメカメカしい人形の人力車、バスのような乗り物が行き交っていて、両端の道に歩行者が闊歩していた。周囲を見回すと建物のほとんどが民家のようなのだけど、西洋風な家や和風の家、モダンな四角い家なんかもある。すれ違う人は、普通な人だけじゃなくて、獣の耳を持つテーリオ族や耳が尖っているエルフのような人もいた。服装も、冒険者や戦士のような服の人もいれば、アオの言う通り洋服や和服何かを着ているような人もいて、中にはコスプレのようなメイド服の女の子がいた。
感想を一言で表すならそれは。
「カオスだ」
「すごいでしょ。私達と同じ世界から向こうから来た人の影響で、色んなのがあるんだよ。もちろん私もその一人。この国の王様が新しいもの好きでどんどん取り入れちゃうんだよ〜」
僕達は左側の歩道を歩いてお店に向かっていた。田舎から都会に上京した人のようにキョロキョロしながら。前からゴミ袋を抱えたおばあさんが歩いてくるのだけど、その人はパワードスーツみたいなのを着用していて、軽々持っていた。
「そうそう、イシリスの街について教えておくね」
彼女によると、この街は東西南北でエリアが分かれているらしく、セントラルパークという広い公園を中心にして、今歩いている西は住宅エリア。南は商業エリアでイシリス商店街があって、北に城がそびえ立っている。東には、テーマパークやスポーツのためのスタジアム、そしてシンボルのイシリスタワーがあるとか。
「師匠のお店はこの西エリアにあるの。ここを曲がるよ」
大通りから外れ細い小路に入る。道は砂利で周辺の建物は古めかしいものばかりで手入れされておらず、ほとんどが空き家のようだ。ここに入った途端に、活気は失われていて、別の世界にすら思えてくる。
「ここだよ」
しばらく道なりに真っ直ぐ進んでいると開けた場所に出て、そこにはポツンと紫の三角屋根の大きな家がそこにはあった。広々とした空間にあって、その家がもう一軒立ちそう。
近づくとドアは木製で、その横には『マリア』という看板が置いてあった。
「ただいまー師匠」
「おかえり、ミズア」
店内はウッド内装のカフェのような感じの落ち着いてオシャレな雰囲気だった。棚が沢山あってその上に色々なマギアが売りに出されている。奥にはカウンターがあってそこに女性が一人いて。
「連れてきたよ」
「こ、こんにちは」
師匠と呼ばれたその人は二十代後半くらいの美人だった。紫の長い髪を伸ばして、同じ色の綺麗なアーモンド型の瞳をしている。大きな胸を腕で抱えていて、何より特筆すべき点は白衣を着用していることだった。その出で立ちは師匠というより博士だ。
「待っていたわ日景優羽くん。私はアヤメよ。よろしくね」
アヤメさんは全てを見透かしたように目を細めて微笑