「お帰りなさい」
「ただいま」

 帰宅して、妻に上着と鞄を預け、妻の用意した風呂に入り、妻の作った料理を食べ、妻に注いでもらった酒を飲む。
 アルコールで気分が良くなり、忠の機嫌はいくらか浮上していた。
 やはり、この妻を手放すのは惜しい。世話をしてくれる人間がいなくなるのは困る。女性としての魅力はもう感じないが、離婚は考えられない。妻が不倫を認めてくれて本当に良かった。

「ああ、そうだ。あのさ、不倫のことなんだけど」
「オープンマリッジ、ね」
「呼び方なんかなんでもいいだろ」

 結局やっていることは変わらないのに。何をそんなに拘るのか。

「なに?」
「相手を報告するって話だったろ。これ」

 スマホの画面に写真を出して、説明する。

「彼女は時田美紀。会社の取引先の社員で、独身。これからちょいちょい会うことにしたから」
「ずいぶん早いのね。もう相手が見つかったの?」
「まぁな。こう見えて俺、モテるからさ」

 自慢げに告げて、忠は胸を張った。本当は元々不倫をしていたからだが、それは妻にはわからないことだ。もう少し時期を見ても良かったが、いざバレてもいいとなるとボロが出るかもしれない。早めに申告しておくに越したことはない。

「美紀さん、ね。うん、わかった」

 妻は穏やかに微笑んだ。怒っている様子は微塵もない。
 それはそれでなんだかつまらなさを感じ、忠は唇を尖らせた。
 まぁ、いい。これから、何人だって女は抱けるのだから。