「オープンマリッジぃ?」
妻、明里から提案された聞きなれない言葉に、牧野忠は怪訝な声を出して首を傾げた。
「なにそれ。なんか面倒なイベントごと? 俺やだよ」
「違うわよ。そういうんじゃなくて、夫婦の在り方に関する話」
「はぁ」
どっちにしろ面倒そうな話だ、と忠は興味のなさそうな相槌を打った。
「簡単に言うとね。お互いに不貞行為を容認するって関係性のこと」
「はぁ!?」
ぎょっとして、忠は大声を上げた。
「ふ、不貞行為って……つまり、えーと、あれだ、不倫を認めるってことか?」
「そうね、そういうこと」
大人しい妻からは出てきそうにない発想に、忠は狼狽えた。
どうして急にそんなことを。まさか、と息を呑む。
「お、お前、まさか、他に好きな男でもできたのか」
「違うわよ。私は別にいないけど」
その言葉に、忠はどきりとした。『私は』。
「最近、私たちセックスレスでしょう」
「へ? あぁ、えー……まぁ、そうなる、かな」
「だからね。何か刺激が必要なんじゃないかと思ったの。あなたが他の女性を抱いて、それで新鮮な気持ちで私とも向き合ってくれるなら、それもいいんじゃないかと思って」
「へ、えー……」
「でもそれだと不公平だし、私だって、他の人に抱かれたら、もっと違った魅力が出るかもしれないでしょう。だから、お互いに認め合いましょう、って」
正直なところ頭は混乱していた。まさか妻から不倫を推奨されるとは。しかしこれは、願ってもない申し出なのでは。
というのも、忠は既に不倫をしている。会社の取引先の女性と、関係を持っている。しかし妻はなかなかに勘が鋭い。そのため、気づかれないように細心の注意を払って行動していた。
万が一妻にバレてしまったら、当然のことながら自分の方が罪に問われる。しかし、今この提案を受け入れれば、妻から許可を得ている不倫なのだから、今後はさほど気にしなくても良いことになる。
「うん、わかった。お前なりに悩んで提案してくれたんだよな。それなら、俺は文句ないよ」
さも理解のある夫のふりをして、神妙に頷いて見せる。それに、妻はほっとしたように微笑んだ。
「良かった。じゃぁこれ、契約書作ってみたの。サインしてくれる?」
「契約書? 本格的なんだな」
「だって、後から私はそんなの許してません、って言われたら困るでしょう?」
「それもそうか」
忠はすんなり納得した。口約束だけで、後で翻されたら困るのは自分の方だ。
忠は渡された契約書の内容にざっと目を通した。
1.互いの不貞行為を許容すること。
2.関係を持った相手の素性を互いに報告すること。
3.不貞行為に必要な費用は、個人の趣味に使用可能な範囲で賄い、共用の生活費を使用しないこと。
「これ二つ目の必要か? 不倫相手のことなんて知りたい?」
「だって、どこの誰とも知れない相手じゃ、危険があるかもしれないでしょう。万が一性病を移されたり、妊娠ってなった時には二人で対処しないといけないし。あんまり人数が増えすぎると、お金が足りなくて三つ目にも抵触するかもしれないし? お財布見張っておかなくちゃ」
「うーん……まぁ……仕方ないか」
忠は金にだらしないところがある。不倫も風俗も無制限、となってしまえば、使い込んでしまうかもしれない。そのくらいのストッパーは必要だろう。
面倒ではあるが、忠にとって不利な条件は何もない。そう考え、忠は契約書にサインをした。
妻、明里から提案された聞きなれない言葉に、牧野忠は怪訝な声を出して首を傾げた。
「なにそれ。なんか面倒なイベントごと? 俺やだよ」
「違うわよ。そういうんじゃなくて、夫婦の在り方に関する話」
「はぁ」
どっちにしろ面倒そうな話だ、と忠は興味のなさそうな相槌を打った。
「簡単に言うとね。お互いに不貞行為を容認するって関係性のこと」
「はぁ!?」
ぎょっとして、忠は大声を上げた。
「ふ、不貞行為って……つまり、えーと、あれだ、不倫を認めるってことか?」
「そうね、そういうこと」
大人しい妻からは出てきそうにない発想に、忠は狼狽えた。
どうして急にそんなことを。まさか、と息を呑む。
「お、お前、まさか、他に好きな男でもできたのか」
「違うわよ。私は別にいないけど」
その言葉に、忠はどきりとした。『私は』。
「最近、私たちセックスレスでしょう」
「へ? あぁ、えー……まぁ、そうなる、かな」
「だからね。何か刺激が必要なんじゃないかと思ったの。あなたが他の女性を抱いて、それで新鮮な気持ちで私とも向き合ってくれるなら、それもいいんじゃないかと思って」
「へ、えー……」
「でもそれだと不公平だし、私だって、他の人に抱かれたら、もっと違った魅力が出るかもしれないでしょう。だから、お互いに認め合いましょう、って」
正直なところ頭は混乱していた。まさか妻から不倫を推奨されるとは。しかしこれは、願ってもない申し出なのでは。
というのも、忠は既に不倫をしている。会社の取引先の女性と、関係を持っている。しかし妻はなかなかに勘が鋭い。そのため、気づかれないように細心の注意を払って行動していた。
万が一妻にバレてしまったら、当然のことながら自分の方が罪に問われる。しかし、今この提案を受け入れれば、妻から許可を得ている不倫なのだから、今後はさほど気にしなくても良いことになる。
「うん、わかった。お前なりに悩んで提案してくれたんだよな。それなら、俺は文句ないよ」
さも理解のある夫のふりをして、神妙に頷いて見せる。それに、妻はほっとしたように微笑んだ。
「良かった。じゃぁこれ、契約書作ってみたの。サインしてくれる?」
「契約書? 本格的なんだな」
「だって、後から私はそんなの許してません、って言われたら困るでしょう?」
「それもそうか」
忠はすんなり納得した。口約束だけで、後で翻されたら困るのは自分の方だ。
忠は渡された契約書の内容にざっと目を通した。
1.互いの不貞行為を許容すること。
2.関係を持った相手の素性を互いに報告すること。
3.不貞行為に必要な費用は、個人の趣味に使用可能な範囲で賄い、共用の生活費を使用しないこと。
「これ二つ目の必要か? 不倫相手のことなんて知りたい?」
「だって、どこの誰とも知れない相手じゃ、危険があるかもしれないでしょう。万が一性病を移されたり、妊娠ってなった時には二人で対処しないといけないし。あんまり人数が増えすぎると、お金が足りなくて三つ目にも抵触するかもしれないし? お財布見張っておかなくちゃ」
「うーん……まぁ……仕方ないか」
忠は金にだらしないところがある。不倫も風俗も無制限、となってしまえば、使い込んでしまうかもしれない。そのくらいのストッパーは必要だろう。
面倒ではあるが、忠にとって不利な条件は何もない。そう考え、忠は契約書にサインをした。